第38話 屋敷の主
ついに姿を見せた屋敷の主。
それは五十代ほどの女性だった。
彼女が口にくわえているパイプからは、全身にまとっているのと同じ紫色の煙が出ている。しかもあれには微量だが魔力が込められているようだ。
「あんたがアドナス山脈で起きている不審な事件の元凶か?」
「さあ、どうかしらね」
誤魔化すように笑いながら答えるも、間違いなくこいつが犯人だろう。
すると、ウィンタース分団長が何かに気づいた。
「おまえまさか……マダム・カトリーヌか?」
その名前には聞き覚えがある。
コリン村に住んでいた頃、近くの町へ買い出しに行った際、掲示板に張り出されていた手配書にあった名前だ。
どうやら、界隈では有名人らしい。
「王族殺しの大罪を犯して祖国を追われたあんたが、なぜこのノーザムに……?」
「私がバカ正直に答えると思って?」
ふぅ、と口からタバコの煙を吐き出して不敵に笑うマダム・カトリーヌ。
王族殺しとはまた随分と思い切ったことをしたな。
あと手配書に載るくらいだから、他にも余罪があるのだろう。
他の罪に関しては分からないが、とにかくアドナス山脈にかかわる事件に関係しているとするなら帰すわけにはいかない。彼女によって負傷した魔法使いたちは大勢いるのだ。
「捕まってもらうぞ、マダム・カトリーヌ」
「やってみなさいな」
自分が負けると微塵も考えていない尊大な態度。そっちが余裕な態度を保ち続けるというなら――その隙をつく。
俺は魔力を光の輪へと変える。
相手の身動きを封じる拘束魔法だ。
「あらあら、芸がないわね。そんなお決まりのつまらない魔法で私を捕らえられると思っているなんて……」
やはり、マダム・カトリーヌは古代魔法へ強いこだわりがあるようだな。
同時に自分の実力に圧倒的な自信があるようだ。
これまで積み重ねてきた悪事が、ヤツの態度を大きくしている要因だろう。
「あなたたちをこのまま帰すと後々面倒なことになりそうね。まだここでやりたいことはあるし……このまま沈んでもらいましょうか」
向こうも臨戦態勢に移ったか。
こちらはメンバーも多いし、優勢であるには違いないだろうが――それでも油断はできないな。
気を引き締めて立ち向かわなくては。
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