第36話 待ち受けるモノ
「こ、こいつは……」
認識阻害魔法によって守れていたモノ――それは大きな屋敷であった。
「貴族の屋敷に匹敵するサイズっすねぇ……」
「誰が住んでいるの?」
顔を強張らせながら話すダンハムとは対照的に、このような状況でもいつも通り特に表情やテンションに変わりがないレイラニ。魔法使いとしては後者のリアクションの方が望ましいのだが、さすがに若手の立場で「この状況下でも無反応でいろ」というのは難しいか。
とにかく、俺たちは屋敷の調査へと乗りだす。
探知魔法を使って内部の状況を軽く調べてみたのだが、中には誰もいないようだ。
「屋敷の主はどこへ行ったんだ?」
恐らく、ローブをまるで生きているかのように操り、逃げるための時間を稼いでいた者とこの屋敷の主は同一人物であると思われる。
そしてそいつはドラゴン絡みの事件にも深く関与している疑いがあるのだが、あいにく留守のようだ。
「魔法兵団が嗅ぎつけたのを察知して逃亡したのでしょうか?」
「あり得ん話じゃないな」
エリックさんの仮説は十分考えられるものだったが、それにしては随分と大掛かりだなぁという疑問が浮かぶ。そもそもこの屋敷は突貫工事で造られたようには見えなかった。だいぶ前から計画的に建造され、今も利用しているように思える。
「ともかく内部へ入ってみるか。有益な情報が望めそうだしな」
確かに、あの広大な森を当てもなくさまようよりは事件の真相に大きく近づけそう打という可能性はある。
だが、同時に危険性も高い。
屋敷内の探索は用心のために全員で行動をともにすることで決定した。
「そもそも開いているんすかねぇ」
まずダンハムが先頭で屋敷のドアへと手をかける。特に施錠もされていなかったようで抵抗もなくすんなりと開いた。
「とりあえず中へ入れるみたいっすね」
「気をつけろよ。突然ゾンビの群れが襲いかかってくるかもしれねぇからな」
「こ、こんな時に冗談はやめてくださいっすよ」
ウィンタース分団長としては場を和ませるためのジョークだったようだが、かえってダンハムは緊張してしまったようだ。
しかし、そんな彼の心情を嘲笑うかの如く屋敷内部は何もなかった。
ひとつひとつの部屋を調査していくものの、これといった発見はできず。
「もしかしたら、この屋敷も時間稼ぎですかね?」
「どうだろうなぁ……そのためにここまでするとも思えんが」
俺もウィンタース分団長の意見に賛成だ。
さすがにここまでも偽物だったら何も信用できなくなるな。
時間的にも囮として用意するには大きすぎるし、何より認識阻害魔法をかけている点でローブたちとは訳が違う。
その後も調査を続行するが何も見つからず、とうとう一階最後の部屋へ。
「ここが何もなかったら、次は二階だ」
小声でそう語るウィンタース分団長に対し、俺たちは頷くことで返事をする。
そしてついに最後の部屋の扉も開かれたが――ここも空っぽだった。
「家具のひとつもありゃしないとはな」
「一体何が目的こんな――っ!?」
俺が話している途中、突然全身を浮遊感が襲う。
「えっ――」
気がつくと足元の床がなくなっており、俺たちは真っ逆さまに落下していく。
しまった。
まさかこの部屋全体にトラップが仕掛けられているなんて!
だが、探知魔法には何の反応もなかったはず。
一体何がどうなっているんだ!?
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