第35話 古臭い魔法

 今では骨董品扱いをされている認識阻害魔法。

 だが、古いからこそ現代魔法では解除できる方法が限られている。


 敵はその盲点をついて大事な何かを認識阻害魔法で守っているようだ。


「――運がなかったな」


 俺は魔力を込めた右腕で目には見えない魔力の壁をぶん殴る。本来ならば何もないので空振りをするはずだが、俺の狙い通り、拳はまるで何かに触れたかの如くピタリと動きを止めてしまった。


 しかし、想定以上の反発だ。

 どうやらこいつを仕掛けた張本人は魔法使いとしてかなりの手練れらしい。


 まあ、今となっては一般に出回っていない認識阻害魔法を利用するほど魔法に精通した人物なのだからこれくらいはやって当然か。


 でも、だからといって負けるわけにはいかない。


「こんのぉぉぉぉぉぉ!」


 魔力をさらに高め、拳を押し込んでいく。 

 すると、ピシピシと音が鳴り始め、目の前に空間に亀裂が生じた。


「す、凄い!?」


 状況を静観していたマリーナだが、徐々に壁の正体が明らかとなっていくとそれに応じて興奮していった。この手の魔法は普段見慣れていないだろうから物珍しいんだろうな。


 子どもの頃とはいえ、魔法を教えた弟子の前で格好悪い姿は見せられない。

 俺はさらに魔力を高めて踏ん張る。

すると、ついに認識阻害魔法を打ち破ることに成功。

大きな岩でガラスを砕いたように、俺たちの認識をそらすために魔力で生み出した壁は粉々となった。


「うまくいってくれたようだな」

 

 一ヵ所に穴を開ければ、あとは簡単に崩れ去る。

 この脆さもまた廃れた要因のひとつと言えた。


「マリーナ、すぐにみんなをここへ呼んでくれ」

「はーい!」


 連絡用の鳥型使い魔で散っているウィンタース分団のメンバーへ招集をかける。

 さすがにここから先へはふたりだけで突入というわけにいかない。


 何が待ち受けているのか未知数。

 万全を期す必要があった。


 ――数分後。


 連絡を受けた面々が集まり、目の前で起きている事態を「信じられない」といった表情で眺めていた。


「まさか認識阻害魔法なんて古臭い魔法を使ってくるとは……」

「だが、実際多くの魔法使いたちの目を誤魔化した。現代魔法は過去の魔法に比べて利便性が上がっている分、こういった弱点も出てくる。肝に銘じておかないとな」


 エリック副分団長とウィンタース分団長はそう語りながら、先陣を切って認識阻害魔法で守られていた内部へと足を踏み入れた。

 

 続いて、残った俺たち四人も突入。

 そこにはさらに驚くべき光景が広がっていた。

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