第34話 違和感

 マリーナと荒野を調査中に感じた妙な気配。

 どの角度から眺めても変化のない景色――だが、まるで目の前に透明な壁が存在しているかのような違和感があった。


 手を伸ばしたところで何も感じない。

 ……だが、確実にそれは――「ある」!


「どうかしたの、先生」

「……壁を見つけた」

「か、壁ぇ?」


 急に何を言い出すんだって顔つきで俺を見つめるマリーナ。

 これが普通の反応だろう。


 何せ、俺が見つめる先には何もないのだから。

 しかし……それでも俺の全身から迸る魔力は目の前の異変をハッキリと伝えている。


「試してみる価値は十分にありそうだ」


 拳を握ると、そこへ魔力を集中させる。

 やがてそれは真っ白な湯気のようになり、俺の右腕を包んでいった。


「せ、先生? 何をする気?」

「恐らくこの周辺には認識阻害魔法がかけられている。そのせいで、俺たちは目の前にある真相を見逃しているんだ」

「に、認識阻害魔法?」


 どうやらマリーナはピンと来ていないらしい。

 まあ、それも無理はないか。

 何せ認識阻害魔法というのは忘れ去られた古代魔法のひとつなのだから。


 魔法は常に進化している。

 先人たちが知恵を絞り、実践し、磨き上げてきた至高の芸術作品――それが現代魔法だ。


 そのため、一部の魔法は「時代遅れ」とか「レトロ魔法」とか揶揄されて扱う者がいなくなり、自然消滅してしまうケースもある。


 認識阻害魔法もそのひとつだ。


 何年か前に書物で読んだ記憶がある。

 こいつを使用すれば周囲から存在を消すことができるものの、味方でさえ把握するのが困難であり、果ては仕掛けた本人でさえ有効範囲外に出てしまうと見つけられなくなってしまうという致命的な欠陥があった。


 現代では改良を繰り返し、一般的には結界魔法とか不可視魔法とか効果を薄めて幅広く使用されている。


 だから、最初は違和感の正体に気づけなかった。

 けど、俺もこの魔法を覚えようとしていた時期があったんだよな。


 なので、すぐに答えを導き出せたよ。


 ――とはいえ、本題はここからだ。

 認識できない以上、触ることはおろか目視さえ不可能だ。


 こいつを破る方法はただひとつ……魔法によって生み出された認識阻害の範囲をぶっ壊せばいい。


 そいつを可能にするのが今やろうとしている無効化魔法なのである。


 やり方は至ってシンプル。


 魔力を込めた拳でぶっ壊したい魔法効果をぶん殴ればいい。


 この魔法もだいぶ尖った性能をしているので現代ではあまり使う人がいないんだよな。

 普通に結界やシールドなどの効果を打ち消す魔法を使えばいい。


 ただ、こいつは例外だ。


 認識阻害魔法を打ち破るには、同時期に生み出されたこの魔法でなければいけない。

 欠陥だらけの魔法を使うヤツなんていないから、効果を打ち消す魔法を真面目に考えるヤツもいなかったんだろうけど……念のため覚えておいてよかったな。


「マリーナ、少し離れていろ」

「う、うん」


 反動で吹っ飛ぶかもしれないので、マリーナを引き離しておく。

 ……さて、どうなることやら。

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