第33話 逃走者の正体

 前回は狼型のモンスターで今回は謎のローブ集団。

 そして未だに真相不明扱いとなっている強さの異なるドラゴン。


 アドナス山脈近郊で起きている不可思議な事件の数々――だが、それは解決の糸口すら掴めないまま、謎だけが膨らんでいった。


 とりあえず、負傷した魔法使いたちを送り届けてから、再びドラゴンの死体がある場所へ。

 腐敗はしておらず、まるで今にも起きて襲ってきそうなほど綺麗な状態だった。しかし、すでに心臓は止まっており、完全に死んでいる。念のため、俺も魔法で調べてみたのだが、結果は同じだった。


 鱗を確認するため調査を始めたが、ウィンタース分団長はずっと顎に手を添えて何やら思い悩んでいる。


「何か気がかりでも?」

「はっ、逆に気がかりじゃないことの方が少ないだろう?」


 言われてみれば確かに。

 今回の事件は最初から今に至るまで謎だらけだ。

 ハッキリと答えが出ている部分の方が圧倒的に少ない。


 なので、解決をしようにもどこから手をつけていっていいのか分からないというのが本であった。


 とりあえず、明日にはバークス分団が合流する予定らしいので本格的な周辺調査はそれまでお預けとし、可能な限りかかわりのありそうな情報を探そうという話になった。


 というわけで、俺はマリーナと一緒に荒れ地の北側へと向かう。


「この辺まで来ると本当に何もないね」

「ああ……」


 視線の先に広がるのは殺風景で代わりばえのしない荒野ばかり。

 集落のひとつも存在していない理由としては、無駄に標高だけ高いアドナス山脈が関係しているという。


「アドナス山脈ってとても高い山が連なっているのに鉱産資源もないし、凶悪なモンスターが住み着いているし、麓もだだっ広い森を除けば農業に適さない荒れ地ばかり……人が暮らすには徹底的に不向きな土地なのよねぇ」


 呆れたように語るマリーナだが……なるほど。そんな不毛な土地に村を作ったりしても意味はないという判断か。当然と言えば当然だな。


 だが、ここ数日の間に起きている事件は間違いなく自然発生したものとは考えにくい。

 ローブを使った囮魔法と言い、明らかにかなりの実力者が裏で糸を引きながらこの土地で何かをしようとしているのは明白だった。


 それに加えて、俺は魔法兵団の判断の遅さも引っかかっていた。


 ドラゴンなどいるはずがないと頭から決めつけ、一部幹部は援軍を出すのを終始ためらっていたという。俺とマリーナが駆けつけて事なきを得たが、あそこでウィンタース分団長が決断を下さなかったら間違いなく死者が出ていただろう。


 なぜ一部幹部は頑なに援軍の派遣を渋ったのか。

 俺は今回の事件の根底にその真相が関わっているのではないかと睨んでいた。


 しかし、こればかりは立場の弱い俺にどうしようもできない。


 グラムスキー兵団長は遊撃隊を組織し、独断で動ける分団をいくつも配下に置いて魔法兵団の闇を一掃しようと目論んでいるらしい。


 それが事実とするなら、今回の案件についても何かしらのアクションを見せるはず。



 俺たちはその時が来るまで地道に耐え、やれるだけのことを精いっぱいやろう。


 自分の中でそう結論を出した直後、俺は何かの気配を察知する。


「なんだ……妙な感じだな」


 同じ景色が続く荒野で本能を刺激する違和感。

 これは一体何なんだ?

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