第32話 掴めぬ正体

 俺たちの前に現れたローブをまとう謎の魔法使いたち。

 だが、そのうちのひとつはローブだけで中身のない偽物であると発覚。


 こうなると、残ったふたりのうちどちらかが本体ということになる。


「まどろっこしいマネをしやがって!」


 続いて地属性魔法使いであるエリック副分団長が攻撃を開始。

 彼は魔力を巨大な岩石に変えると、残ったふたりのうちのひとりに向かって放り投げる。


 当然、そいつは岩を回避しようとするのだが、ここでエリックさんが仕掛けた。


「甘いな!」


 彼が魔力を強めると、なんと放り投げた岩がサイズアップ。

 余裕をもって回避しようとしていたローブの魔法使いであったが、急激なサイズ変更にはついていけずに押し潰される。


「どうだ!」


 エリックさんが岩石を消滅させて正体を確認しに行く――が、そこにあったのはペラペラになった中身のないローブのみ。


「ちっ! こっちは偽物か!」


 悔しそうに拳をガンガンとぶつけ合うエリックさん。

 だが、おかげで本物が絞れた。


 残った最後のひとりは現在レイラニ&マリーナと戦闘中。


「こいつ!」


 水聖の異名を持つマリーナは得意の水魔法で果敢に攻める。

 だが、相手はそれをかわし続けていた。


 ――なんだ?


 俺は治療をしながら戦闘を眺めているうちにある違和感を覚える。

 あのローブの魔法使い……まったく反撃してこない。


 カウンターを決められる機会もあったのだが、ただ逃げに徹している。まるで時間稼ぎをしているような――


「っ! そういうことか!」


 脳裏に浮かんだある仮説。

 それをウィンタース分団長へ伝えようとしたが……彼の表情を見る限り、どうやら気づいたようだな。


「そろそろおしまい」


 戦闘ではレイラニが風魔法で突風を起こし、ローブを引きはがそうと試みる。

 まるで嵐のような強風が吹き荒れ、その結果、ついにローブは吹き飛んだのだが――やはり俺の睨んだ通り、こちらも中身はなかった。


「ど、どういうこと!? みんな偽物!?」

「……まんまとしてやられたな」


 大きく息を吐き出しながら、ウィンタース分団長はその場に腰を下ろした。


「ヤツらは逃走するための時間稼ぎだ。恐らく、ここにいる魔法使いたちを襲った真犯人はとっくに安全圏へとたどり着き、今頃はほくそ笑んでいるだろうな」


 怒りに任せて地面を殴るウィンタース分団長。

 

 ヤツらは恐らくドラゴンの死体に何かしらの仕掛けを施し、立ち去ったのだろう。

 とにかく、今は可能な限り情報を集めて次の動きに出なければ。


 こうして、ウィンタース分団の一員として正式に迎えた俺の初任務は、ほろ苦い失敗に終わったのだった。

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