第29話 曲者揃い
魔法兵団という組織そのものに対して少々不安を覚えるが、バークス分団を壊滅寸前にまで追いやったあのドラゴンの一件は俺も気になっている。
それを現地に赴いて調べようというのだから自然と気合が入るってものだ。
今回は俺の転移魔法を使って移動する。
これだけかなりの時間短縮だ。
もっとも、転移できる範囲には限りがあるので、どこへでも気軽に飛べるというわけではない。この辺は鍛錬次第で広げられるので、今後の課題のひとつとなるだろう。
転移先は麓に広がる森林地帯。
そこからまずはドラゴンが襲ってきたという例の湖へ一緒に転移した馬に乗って移動することとなった。
「転移魔法は無属性の中でも習得が困難とされているっすけど、どれくらいの期間で身につけたんすか?」
「こいつは二ヵ月くらいだったかな」
「めっちゃ早いじゃないっすか! コツを教えてほしいっす!」
無属性魔法使いとしてサポート役に回っているダンハムとしては、いろいろと覚えたいのだろうな。自然界の力を借りる属性魔法に比べると攻撃へ応用できないが、逆に「かゆいところに手が届く」っていうのが無属性魔法の利点。
こいつを最大限に活用するためにはとにかくたくさんの種類を覚えた方がいい。
なので、ダンハムの判断は効率的であると言える。
まあ、それは戻ってからじっくりと話し合うとして、今はアドナス山脈近辺で起きた異変調査に集中しようと呼びかける。
ダンハムも任務中だったことを思い出してすぐに気持ちを切り替えた。
しかし、本当にここの分団はメンバーの数が少ないな。
「先生、うちのメンバーが少ないことを気にしているの?」
いつの間にか馬をすぐ隣につけていたマリーナからそう尋ねられる。
「鋭いな、マリーナは」
「だって先生、顔に出やすいんだもん」
「そ、そうか?」
だとしたら改善していかないとまずいな。
表情から情報を読み取られるわけにもいかないし。
そんなことを考えていると、マリーナが分団の秘密について話してくれた。
「うちのメンバーは出世に微塵も興味がないって人が集まっているの。上下関係と派閥とかそういうしがらみを抜きにして、純粋に魔法兵団としての任務をこなそうと考えている人を選出したって分団長が言っていたよ」
「それはいいことだと思うが……グラムスキー兵団長とかはどう思っているのかな」
「言い出しっぺはそのグラムスキー兵団長だから、きっと応援してくれているんじゃない?」
「なんだって?」
……なるほど。
合点がいった。
兵団長がバックにいれば、ある程度は自由に動けるってわけか。
つまり遊撃隊として位置づけられている、と。
同時に俺がウィンタース分団所属となった経緯も透けて見えてきたな。
俺のことをよく思っていない上層部がここへの配属を強行した――しかし、グラムスキー兵団長からしてみれば遊撃隊に新しい面子が加わるわけで、より戦略の幅が広がると判断したのか。
いずれにせよ、俺とウィンタース分団長は思考が似通っている。
俺としても出世するよりはこの魔法兵団の闇を暴き、これから入ってくる若者たちに誇れる職場であればいいと考えていた。
そのためにも、この曲者揃いの分団で同僚たちとやれるだけのことを精いっぱいやろう。
改めて決意を胸に秘めると、目的地へ向けて急ぐのだった。
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