第25話 疑惑
俺とマリーナで協力し、バークス分団を壊滅寸前にまで追い込んだドラゴンは無事に討伐された――のだが、俺はどうもしっくりこない気持ちでモヤモヤしている。
ヤツの外見は完璧にドラゴンだった。
百人に質問すれば百人全員がドラゴンと答えるくらい、それは揺るぎようのない事実。
しかし、それにしては弱すぎると感じていた。
このことから、俺はある仮説を立て、それを帰り支度中のバークス分団長へと投げてみる。
「バークス分団長……あのドラゴンはあなた方が戦ったものとは別個体ではないでしょうか」
「……あなたもそう考えていましたか」
どうやら、彼も俺と同じ考えを持っていたらしい。
「あなたの実力は紛れもなく本物です。今の魔法兵団にあれほど鮮やかな手並みで魔法を操れる者は少ないでしょう。――しかし、我々が最初に戦ったドラゴンはパワーもスピードももっと上でした」
そうなのだ。
バークス分団はノーザム王国魔法兵団の中でも指折りの実力者が揃っている。
そんな凄腕の集団をたった一体で壊滅寸前にまで追い込んだドラゴンがあんなに弱いはずがない。
だから俺は別個体説を唱えたのだが、バークス分団長曰く、外見は紛れもなく自分たちが戦ったドラゴンと同じだったらしい。
「外見が同じで中身だけが違うドラゴン……それが偶然この地に存在していた?」
「可能性としてはゼロじゃないのでしょうけど、些か現実味に欠けますね」
同意見だ。
というより、この事件はそもそもスタートからいろいろとおかしい。
果たして、俺たちは本当にドラゴンを討伐したのだろうか。
そんな当たり前のことですら分からなくなってくる始末だ。
ともかく、バークス分団とともにまずは帰還を優先させることにした。
帰り支度を整えると、同じく準備を終えたメイジーがやってくる。
「ゼルク先生……改めてお久しぶりです」
「ああ。立派に成長したな。見違えたよ」
「で、でも、私は狼型モンスターを前に何もできなくて……」
「そんなことはないさ。仲間を守るために毅然とした態度で立ち向かっていたじゃないか」
俺の記憶にあるメイジーという少女は、それはそれは大人しくて争いごとを好まない心優しい女の子だった。
それが男でも身震いしてしまいそうなモンスターの大群を相手に一歩も引かなかったのだからたいしたものだ。
「魔法兵団の制服を着ているということは、先生も私たちと同じ……」
「うん。魔法兵団所属の魔法使いになったんだ。今度からは同僚――いや、先輩になるのか」
「わ、私が先生の先輩なんておこがましいですよ!」
顔を真っ赤にして首を左右に激しく振るメイジー。
この辺の反応の仕方とかは子どもの頃から変わっていないな。
それからマリーナも交えて思い出話に花が咲いた。
時間も忘れて話しているうちに、帰還へ向けた準備が整う。
あとは俺の転移魔法を使い、全員まとめて一瞬のうちに王都へと移動完了。
一度足を踏み入れた場所ならこれで移動が可能だ。
「驚いたな……こんなにもたくさんの魔法を使いこなせるなんて」
「鍛錬の成果だよ」
「いや、修行だけではここまではいかないはずです。魔法使いとして高い資質を有しているからこそできるのでしょう」
魔法使いとしての資質、か。
昔から魔法を扱うのは得意だったけど、それはあくまでも人よりちょっとだけ上手ってだけで俺くらいのレベルはごまんといるって思い込んでいた。
しかし、王都にもここまでのレベルはそうそういないらしい。
とはいうものの、やはり実感は湧かないなぁ。
とにかく、当初の目的は果たせたのでウィンタース分団長に報告をしなくちゃならない。
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