第18話 属性からの脱却

 俺たちはアドナス山脈の麓に広がる深い森で、行方が分からなくなっていたバークス分団のメンバーであるランドを保護した。


 しかし、肝心のバークス分団長とメイジーについてはなんの情報も得られず。


「そうか……メイジーに魔法を教えったっていう先生はあんただったのか」


 ランドは同じ分団に所属する仲間として、メイジーとはよく話をしていたらしい。

 その中でよく俺の名前が出てきたという。


「あの子はあんたに深く感謝しているといつも口にしていた。あんたのおかげで自分は魔法に出会え、生きる道を見つけられた、と」


 嬉しいことを言ってくれるじゃないか、メイジー。

 不覚にもちょっとウルッてきちゃったよ。


 ――っと、そうだ。


 そのメイジーの居場所について何か知っていないか聞いてみないと。


「散り散りとなった他のメンバーが行きそうなポイントについて心当たりは?」

「あるなら拠点と定めた湖だと思って、俺は近くに隠れながら誰か来るのをずっと待っていたんだ。みんなも同じ考えだといけないから周囲を可能な限り探ってみたが、誰とも会わなかったよ」


 探知魔法でも彼以外に反応はなかったから、いなかったというのは正しい。

 だが、そうなると他のメンバーはどこへ行ったんだ?


 ランドの話によると、バークス分団のメンバーは全員で八人いたらしく、そのうちふたりはすでに顔を合わせているので、行方が分からなくなっているのは残り六人。

 この森の中にいるのは間違いないと思うのだが……なんとかして連絡を取らなければ。


「なあ、あんた……ゼルクだったか。俺たちの状況を聞いて魔法兵団はどうしている?」

「上層部が集まって今後の対応を協議している最中だ。もっとも、俺たちは我慢できずに飛び出してきてしまったが」

「ははは……なるほどね」


 苦笑いを浮かべながらそう語るランド。

 どちらかというと「呆れている」という表現が正しいかな。

 

「この期に及んで何をそんなに怯えているのか……大怪我をしているミシェルが嘘をつくはずないのに」


 どうやら、魔法兵団の対応について不満があるらしい。

 俺も言いたいことは分かるが、まずは彼を守らなくてはならない。いくら魔法兵団でも腕利きの部類に入るからって、今のような満身創痍の状態では満足に魔法も使えないだろう。


「ランド、君はひと足先に王都へ戻って回復に努めるんだ」

「どうやって帰れって言うんだよ。馬には逃げられたし、そもそもこの状態ではしばらくまともに動けんぞ」

「転移魔法を使うんだ」

「ははっ……バカを言え。このコンディションでそれは無理だ」

「勘違いしないでくれ。あんたじゃなくて俺がやるんだ」

「なっ!?」


 俺が転移魔法を使うと言い出したら、ランドはこれまでで一番驚いていた。


「おまえ……さっき探知魔法を使っていたよな?」

「えぇ」

「おまけに治癒魔法まで使えるそうだな」

「まあ」

「そして最後の最後に転移魔法って……どうなっているんだ、あんたの魔法のバリエーションは」

「何ならあと百種類以上は扱える魔法がありますよ、ゼルク先生は。ちなみに属性関係なく」

「やめろ、マリーナ。こんな時に子どもでも瞬時に見破られるような嘘をつかれるとかえってドッと疲れてくる」

「そう言われても、事実なのに」

「あのなぁ、大体そんなコロコロと属性を変えて使いこなせるはずがないだろう。それこそ噂になった偉大なる大魔導士ゼルクでもなければ不可能――あっ」


 ここでようやく自分が今まで誰と話をしているか理解したランド。


「なんてこった……ここにいるじゃないか」

「いるんだよねぇ、これが」


 適当に合わせの芝居をやったあと、俺はランドを転移魔法で王都へと送り届けた。

 何事かと肝を冷やしたが、これでとりあえず安心か。


 ――いや、まだ根本の解決には至っていない。

 ここからさらに調査を進め、メイジーたちと合流しなくては。

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