第16話 惨状

 夜の湖にたどり着いた俺たちが目撃したのは、ボロボロになったテントだった。

 

「行ってみよう」

「う、うん」


 探知魔法に反応はない。

 つまり、この近くに俺たち以外の人間やモンスターはいないことになる。なので、警戒をする必要はないのだが、それでも慎重にゆっくりと歩を進めていく。


 距離が縮まると、さらに新たな情報が。


「テントの周辺に物が散乱しているな」

「かなり慌てていた様子がうかがえるね。よほどヤバい敵が襲ってきたのかな?」


 バークス分団はメイジーを含め、かなりの実力者揃いだという。

 それが壊滅状態にまで追い込まれたとなったら、負傷した男性魔法使いが口にしていたようにやはりドラゴンの襲撃があったと考えるべきか。


 あの話について、ウィンタース分団長は懐疑的な見方をしていた。


 というのも、ここ数年ドラゴンの目撃例はなく、仮にいたとしたらもっとハッキリした目撃情報が寄せられるだろうと語っていた。


 まあ、そりゃそうだよな。


 ドラゴンがヤバい生き物だっていうのは田舎で生まれ育った俺でもよく知っている。

 そいつが実際に現れたとなったら、メイジーたちはどこかに避難したのかもな。


「もしバークス分団の面々がドラゴンから逃れようとしたなら、俺たちもここへ居続けるのはまずいかもしれないな」

「でも、探知魔法に反応はないんでしょ?」

「それはそうだが……む?」


 マリーナに言われて探知魔法へ意識を向けると、わずかだが反応が見える。

 このサイズだと、ちょうど人間ひとり分といったところか。

 もしかしたら他のはぐれた分団メンバーかもしれない。


 いずれにせよ、夜中にこんな場所へ足を運んでいるのが俺たち以外にいるというのが怪しすぎる。


 俺はマリーナに事情を説明し、反応があった場所へ向かうことに。

 どのみち、ここへはいられないからな。


「でも、道が暗くて進みにくいね」

「なら照明魔法の出番だ」


 そう言って、俺は指先に魔力を集中させ、それを光に変換。

 これなら夜でも明かりに困ることはない。

 コリン村にいた時、発光石の効果が切れた際は購入するまでこいつで代用していたな。


「探知魔法の次は照明魔法……やっぱり先生は凄いや!」


 俺の照明魔法にも負けないくらい瞳を輝かせるマリーナ。

 こいつはそれほど扱いが難しいわけじゃないから、鍛錬次第ですぐに使えるんだけどな。


 魔法兵団というのは適性のある魔法を徹底的に極めていこうというスタイルらしい。

 それは俺がコリン村でやってきたことと真逆だった。


 うーん……これが魔法兵団全体の方針だとするなら、俺もそうなるのかな。

「広く浅く」をモットーに詰め込んできた弊害か。


 まあ、それは指摘されてから考えればいいか。


 とにかくメイジーの無事を祈りながら探知魔法を頼りに進んだその先は――深い森の中だった。


 果たして、ここにいるのは一体誰なんだ?

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