第14話 一大事

 傷だらけで詰所へと帰還した男性魔法使いは、専門的な治療を受けるために診療所へと運ばれていった。


 とはいえ、すでに俺の治癒魔法で最悪の状態は回避できている。

 あとは何事もなく回復するのを待つだけだ。


 ――ただ、問題はまだ残っている。


 というか、むしろこっちの方が問題だ。

 彼らはどこで誰に襲われ、そして一緒に行動していたはずの仲間たちの安否は?

 おまけにマリーナの話ではそこに俺がかつて魔法を教えたメイジーがいるらしい。


 彼女は四人の中でも大人しく、今もその性格は変わっていないらしい。

 正直、シャーリーたち四人が揃って魔法兵団に入ったということ自体とてもビックリしたのだが、何よりあのメイジーが所属しているという事実が一番驚いた。


 とても穏やかで戦いとは無縁な性格だった。

 他の三人が炎や水を自在に操っていく中、彼女は治癒魔法を覚えていった。

誰かの役に立つために魔法を使いたいと願っており、その点は俺とよく似ている。

彼女も両親を生まれてすぐに亡くし、村人たちが協力をしながら育てたというまったく同じ境遇というのも思考が似ている要因だろうな。


 もちろん、他の魔法使いたちの安否も心配だ。


 負傷した男性を最初に発見した俺とマリーナは詳しい事情を報告するため、再びウィンタース分団長の部屋へ。


「やれやれ、まさかこのタイミングで事件発生とは」

「おまけにあたしと同じように先生から魔法を教わったメイジーのいる部隊なんて……これはもう運命だね」

「いや、それはどうだろう……」


 なんだか俺が来たことで厄介な事件が起きているような……せっかく新しい職場で心機一転やろうとしているっていうのに、出鼻を挫かれたみたいだ。


 ――って、今はそんなことよりもメイジーを助けるために手を尽くさなくては。


「そのメイジーも所属しているバークス分団は東端の国境付近にあるアドナス山脈を調査している最中だったな」

「アドナス山脈……確か、大型モンスターの目撃情報が続出している場所だね」

「まあガセネタだろうなって話になったんだが、何せあそこは隣国との大事な交易路。何かあってから警戒を強めたのではダメだ。他の国に対応の遅さを指摘されかねないからな」

 

 ふむ。

 国同士のやりとりというのは農村にいた頃は気にしなかったからよく分からないが、そういうものなのかな。

 コリン村は新聞も届かないし、政治絡みの情報にはとんと疎い。

 これから魔法兵団でやっていくならその辺の事情に関しても網羅しておかなくちゃいけないな。


「上層部は今後の対応について協議中だが、正直その終わりを待っていたのでは手遅れになるかもしれん」

「あたしもそう思う!」

「俺も同じ意見です」


 お偉いさんにはお偉いさんでいろいろと配慮しなくちゃならんことがあるんだろうけど、こうしている間にも危機が迫っているかもしれないからな。


「他の連中も上からの判断を待ちきれずに動き出すだろう。暢気に机を合わせながら話し合いをしている間に取り返しのつかないことになりかねん」

「しかし、正式な命令もなく動いて大丈夫なんですか?」

「臨機応変ってヤツだよ。それと、何も命令無視をしようっていうんじゃない。おまえたちふたりは偵察任務をするだけだ」

「偵察……その手があった!」


 テンションが爆上りのマリーナ。

 偵察って話だけど、まあその場で何かあったら状況に応じて動けっていうニュアンスも含まれているのだろう。


「ゼルク、おまえにとっては魔法兵団に入って初任務となる。おまけに縁のあるメイジーに何かあった可能性は高いが……気張りすぎて自分を見失わないようにな」

「はい!」


 魔法兵団に入って初めての仕事。

 おまけにメイジーの所属する分団の様子を探るという内容。

 気合が入らないわけない。


 だが、ウィンタース分団長の言うように、冷静さをキープしながら任務にあたるとするか。

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