第13話 緊急事態
寮への移動中にマリーナが耳にしたという声。
俺には聞こえなかったが、あの子があんなに慌てるくらいだから相当な事態が発生したのだろうと予測できる。
――で、魔法兵団詰所の正門までやってきた。
そこでは二名の門番がいて、突然現れたマリーナに戸惑っている様子。
「だんだん近づいてくる……」
そう語るマリーナだが、周辺に人の影は見えない。
門番と顔を合わせ、肩をすくめていると、道の遥か向こうに人影のようなものが。
視界に入ったとはいえ、まだ輪郭さえハッキリしないほど遠い。それでも声を聞いたというマリーナはその影に向かって再び走り出す。
「あの人、ひどい怪我をしているよ!」
「け、怪我? どうしてそんなことが分かるんだ!」
「息遣いが辛そうだもん!」
走る直前になってそう告げるマリーナ。
居場所だけでなく状態まで分かるのか。
俺は真相を知るため、彼女のあとを追いかける――と、そこには彼女の言った通り、重傷を負っている男性が。ボロボロになっているが、彼の身にまとう衣服は間違いなく魔法兵団の制服。となると、任務中に何かあったのか?
「しっかりしろ! すぐに治癒魔法を使う!」
村人たちが怪我や病気をしても大丈夫なように、基礎的な治癒魔法はいつでも扱えるようにしている。
時間はかかるだろうが、命を落とすまでにはならないだろう。
ここで俺はマリーナが大人しくなっているのに気がついた。
どうしたのかと視線を向けると、顔面蒼白になっている。
「お、おい、どうしたんだ、マリーナ」
「……この人はメイジーが所属している分団の魔法使いなの」
「メイジー? ――あのメイジーか!?」
またしても聞き覚えのある名前だ。
シャーリーやマリーナと一緒に魔法を教えていた四人の女の子のうちのひとり。さっき遠征中と言っていたが、どうやらその遠征先で何やらトラブルが発生したらしい。それも、大怪我を伴うような大事件だ。
しばらくすると、俺たちの様子がおかしいことに気づいた門番のひとりが駆け寄ってくる。
事情を知った彼はすぐに兵団の関係者を呼んでくるとだけ言い残して立ち去った。
そうだ。
ここは専門家に任せてもらうべきだろう。
俺ができるのはせいぜい応急処置だけだし。
ただ、そのおかげで男性の意識は少しずつ回復していき、こちらの呼びかけにも小さくだが返せるようになってきている。
「一体何があったんだ……」
まだ答えられるような状況ではないが、尋ねずにはいられなかった。
男性はまだ残る痛みに顔を歪めながらも、俺たちに何かを訴えようと口を動かしている。
集中して耳を傾けていると、わずかな単語だけ聞き取れた。
「ドラ……ゴン……」
「っ!? ド、ドラゴン!?」
まさか、ドラゴンに襲われたのか?
だとしたら、すぐにでも救助部隊を派遣する必要がある。
これは一大事だぞ!
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