第12話 四人の関係

 移動した先はウィンタース分団長の執務室。

 分団長クラスにまで出世すると、こうした個別の仕事部屋が与えられるらしい。

 

 これからもっと魔法を覚えたいという意欲はあるが、正直、出世しようという意欲はまったくなかった。

 そもそも俺が魔法を覚えたり魔道具を作っていたのはお世話になった村の人たちへの恩返しという意味合いが強い。もちろん、魔法兵団に入ったからは人々を守るためにこれまで培ってきた知識や技術をもって貢献するつもりだ。


 さて、ウィンタース分団長の説明も終わり、これから本格的に魔法兵団の一員として任務遂行にあたるのだが、ここで思わぬ事実が。


「悪いが、今は特にこれといって問題も起きていないんでな。うちのメンバーはそれぞれ自主鍛錬中だ」

「そ、そうなんですね……」


 肩透かしを食らった気分だが、いきなり実戦に投入されるのもちょっと不安という。

 ――って、そんな情けない思考でどうする!


 ともかく今すぐにどこかへ出る予定はないということだったので、とりあえず寮にある自室を見てこよう。グラムスキー兵団長も、分団長との話し合いが終わり次第、部屋の準備に取りかかるよう言っていたし。


「なら、あたしが案内するよ」


 そう名乗り出てくれたのはマリーナだった。


「助かるけど、いいのか?」

「魔法使いとして鍛錬も大事だとは思うけど、数年ぶりに会う先生との会話を優先したいかなって――ダメ?」


 うぐっ。

 この上目遣いは反則だ。

 そういえば、マリーナは昔からこういう無自覚さがあった。

 ……いや、無自覚なのか?

 本当は自覚しており、武器のひとつとして有効活用しているのではないか?


 だとしたらなんとしたたかなことか!


「先生? どうしたの?」

「っ! い、いや、なんでもない。じゃあ、行こうか」

「うん!」


 無邪気な笑顔を浮かべて小走りに駆け出すマリーナ。

 この辺は本当に昔と変わらないな。 

 昔と言えば――


「マリーナは今もシャーリーたちと交流があるのか?」

「もちろん! みんなで一緒に魔法使いになろうって決めていたし、今だって時間がある時はご飯を食べに行ったりしているよ!」

「それはいいな」

 

 ……どうも俺は勘違いをしていたらしい。

 シャーリーは炎麗と呼ばれるのを嫌っていた。あの子は比較されているからあまり好きじゃない呼ばれ方と言っており、どちらかというと友人というよりはライバルという目で他の三人も見ているのではないかと推測していたのだ。


 しかし、マリーナが語る内容のどれもがそれを否定している。

 昔と何ら変わらない、良き友人として付き合っていたのだ。


 あの時にシャーリーが語った「比較」の意味は「比べられても負けたくない」という意味よりも「それぞれが仲良くやっているのだからわざわざ比べるな」っていう方なんだろうな。


「そうか……仲が良さそうで何よりだ。それで、他のふたりは今どこに?」

「どっちも遠征中。たぶんそろそろ帰ってくる頃だと思うけど――あれ?」


 話の途中でマリーナは何かに気づき、寮とは反対方向へと走り出す。


「お、おい、どうしたんだ!?」

「声が聞こえたの!」

「えっ? 声?」


 俺には何も聞こえなかったが、彼女の耳にはしかと届いていたようだ。


 とにかく、俺も行ってみることにしよう。

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