第11話 入団式

 入団試験が終わり、正式に採用が決まった翌日。

 この日はまず入団式が執り行われた。


 合格者は俺を含めて全部で十五人。

 長年にわたって人材不足らしいのだが、かといって合格基準を引き下げるわけにもいかない職場なので調整が難しいだろうな。幸いというべきか、希望者の数自体は微増とのことなので人材枯渇という最悪の状態は避けられているという。


 さて、その入団式には当然俺の他にあのギルバートもいた。

 また何か嫌味を言われてしまうかもと思い、なるべく視界に入らないよう隅っこに控えていたのだが、なぜかあっさり見つかった。

 というより、彼はどうも俺を探していたようだ。


 そうまでして難癖をつけたいのかと警戒していたら、予想外の言葉が飛んでくる。


「昨日はありがとうございました」

「へっ?」

「あなたと戦う機会を与えてくださったグラムスキー魔法兵団長には感謝しなければなりませんね。おかげで俺はこれまでになく成長できたと感じています」

「そ、それはよかった……」


 この子、本当に昨日戦ったあのギルバートと同一人物か?

 外見はまったく同じだけど、中身だけ入れ替わってない?


 そう思えるくらい、彼の笑顔は爽やかで、言葉のひとつひとつにまったく嫌みがない。

 本当に何があったんだよ。


 困惑するも、時はそんな俺の心情などお構いなしに進んでいき、グラムスキー魔法兵団長が壇上にあがってこれから入団する若者たちへ魔法使いとしての心得を説いていく。


 俺は若者ではなく中途採用という立場だが、それでもグラムスキー兵団長の話は心に染みわたったな。

 前途有望な彼らとは違い、中途採用である俺は即戦力として見られるだろう。

 どこまで通用するのか分からないが、俺のやれるべき仕事をきっちりこなしいきたい。それが行き場を失っていた俺に新しい道を示してくれたシャーリーたちへの恩返しにもなるだろうからな。


 入団式が終わると、事前に決められていた所属部隊へ分かれることに。

 ちなみに俺はベテランのウィンタース分団長が率いるところへの配属が決定している。

 

「昨日の戦いは見させてもらった。まさかおまえが噂の大魔導士だったとはな」

「い、いえ、そこまで大袈裟なものでは……」

「謙遜するな。大魔導士かどうかはともかく、間違いなく実力はある。それだけは確かだ」


 蓄えた白髭を撫でながら、ウィンタース分団長は俺とギルバートの戦いを振り返る。


「若き四本柱の一角である炎麗のシャーリーに魔法を教えたらしいが、指南役もおらず独学だったらしいな」

「村の人たちの助けになればと、魔導書を読み漁っていろいろと覚えました」

「そいつはいい。その上昇志向は魔法使いとして欠かせない資質だ。最近の若い連中は何かと理屈っぽくていけねぇ。その点、うちにいる水聖のマリーナを含め、おまえが魔法を教えた四本柱はよく分かっている」

「マリーナ?」


 その名前には聞き覚えがあった。


 確か、彼女もシャーリーたちと一緒にコリン村にいた――


「お久しぶり、先生」


 そんなことを考えていると背後から誰かに肩を叩かれる。

 振り返ると、そこには青い髪を一本の三つ編みで整えた若い女性の魔法使いが。


「ちょうどおまえの話をしていたところだ、マリーナ」


 ウィンタース分団長の言葉で、俺はハッとなる。


「君……あのマリーナか?」

「覚えていてくれたの? 嬉しい!」


 彼女は満面の笑みを浮かべると、ガバッと勢いよく俺に抱き着いた。

 いろいろと柔らかな部分が不意打ちのように当たって情けなくもちょっと取り乱す。


「ちょっ!? ど、どうしたんだ!?」

「昔はよくこうやってたじゃない」


 そう。

 彼女はシャーリーと同時期に魔法を教えた四人の中でもっとも人懐っこく、俺に魔法を教わろうとしたきっかけもまたなんにでも関心を抱く彼女が発端であった。


 だが、それはあくまでも十年以上前のこと。

 今の成長した彼女の体は……ヤバい。


「はしゃぐのはいいがな、マリーナ。次の段取りがあるから場所を移動するぞ」

「はーい」


 ウィンタース分団長は慣れているようで、特に注意もせず歩きだす。

 でもまあ、容姿は変わっても中身は変わっていないと分かってちょっと安心したかな。

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