第9話 食堂でのひと時
場所をシャーリーが常連だという食堂へ移動し、そこで「他の三人」について話しを聞くことに。
「私と同年代で先生から魔法を教わった三人です」
ナイフとフォークを器用に使って上品に食事をしつつ、シャーリーはそう告げた。
「君と同年代の三人……」
心当たりはある。
シャーリーが村にいた頃が一番子どもの数も多かったからな。
あれはもう十年ほど前になるか。
みんなそれぞれの事情で村を離れていったが、シャーリーの言い方だと全員が魔法兵団所属となっているようだ。
彼女曰く、とてつもなく元気らしいのでひと安心。
落ち着いたら会ってゆっくり話がしてみたいな。
他にも子どもの頃にコリン村で暮らしていた者たちがいるようなので、彼らとも時間があれば顔を合わせてみたいと思う。
「しかし、時が経つのは早いなぁ。あの時の子たちが魔法兵団に入って活躍しているなんて」
「魔法を使って人を救いたいという先生の崇高な理念に後押しされた結果ですよ」
いや、俺の場合はそこまで深くは考えていないんだよなぁ。
ただお世話になった村の人たちに恩返しをしたくて魔法を覚えたり魔道具を作ったりしていただけだ。
ただ、どうも俺がコリン村でやってきたそれらの行為は当たり前にできるようなものではないらしく、シャーリー自身、実際に魔法兵団に入ってギャップに驚かされたと語ってくれた。
「いかに私の感覚が麻痺していたのか、身をもって知りました。魔法兵団にいるどんな魔法使いでも、先生のような器用さを持ち合わせてはいませんよ」
「そう言ってもらえて嬉しいが、どうにも上司の方々には気に入られていないようだ」
脳裏に浮かぶのは試験終了後に受けた言葉の数々。
敵視満々って感じだったし、出世はできそうにないかな。まあ、元から普通に生活していけるだけの収入さえあれば他に何も望んではいなかったけど。
――その時、ふとある女性の顔が浮かんだ。
「そういえば、俺が戦ったギルバートのお姉さんにも声をかけられたな」
「アマンダさんですか?」
「知っているのか?」
「同じ魔法兵団ですからね。それに……あの人はいろんな意味で目立つ方ですから」
確かに。
めちゃくちゃ美人で目立っていたな。
これはあくまでも俺の感想であり、シャーリーの言う「目立つ」はまた違った意味なんだろうけど。
「気をつけた方がいいですよ……あの人は物凄い野心家ですからね。なんでも、史上初となる女性の魔法兵団長を目指しているようですから」
「へぇ~」
女性初の魔法兵団長か。
その肩書がめちゃくちゃ似合うな。
なんというか、風格というかオーラもあったし。
あと誠実そう。
さらに美人ときたもんだ。
ちょっと気になるのは現幹部たちへの辛辣な言葉。
「老害」呼ばわりはなぁ。
俺もまた魔法兵団で仕事をした経験がないのでなんとも言えないけど、考え方に隔たりがあるようだ。
その辺が果たしてどう出るか……って、人の心配をしている場合じゃなかった。
「明日からいよいよ正式に勤務が始まるのか」
「と言っても、入団式が終わったら配属先を伝えられて、それから――」
「たぶん、兵団長がお話をしたいって誘ってくると思いますよ」
「なぬっ?」
兵団長って、魔法兵団のトップだよな?
そんな大物が俺に何を話すって言うんだ?
「グラムスキー兵団長は先生の履歴書に書かれている内容を疑っていましたからね。ただ、今日の試験でその一端を垣間見たでしょうから、きっと興味が湧いたと思いますよ」
話を聞く限り、前向きに話ができそうな感じではあるけど……せめて兵団長にはしっかりとアピールをしておきたいところだ。
その後は仕事の話ではなく、シャーリーがコリン村を離れてから魔法兵団に入るまでの経緯を語ってくれた。
彼女は大変な努力を重ねて入団し、今では同期三人と合わせて戦果をあげているという。
あの子たちとも近いうちに顔を合わせて挨拶をしておきたいな。
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