第8話 合格通知
「まさか本当に合格できるとは……」
試験終了後。
合格した者たちは別室に呼ばれ、そこで正式に魔法兵団の一員として入団が認められた。
入団の合否は単純に試合の勝敗で決まるのではなく、あくまでも総合的な判断によるものらしい。実際、俺と戦って敗れたギルバートは合格していたし。
そのあとの試合もすべて見たが、彼よりも腕の良い魔法使いはいなかったからこの結果については当然の判断と言える。
とりあえず今日のところは通知のみで後日改めて入団式を執り行い、そこで国王の印章付き入団証が手渡されるらしい。
何はともあれ、無事に合格できたおかげで再就職確定。
魔法兵団には寮もあるから住む場所も確保できて一石二鳥だ。
ただ、寮にはすぐ入れるわけではないようなので、今日のところは宿屋に頼るとしよう。
説明が終わると、俺のもとに魔法兵団のお偉いさんと思われる人物が何人かやってきた。
彼らは「君が本物のゼルク・スタントンとまだ認めたわけではない」とか、「いずれ正体を暴いてやる」とか、いろいろ言われた。認めるも何も、俺は生まれた時からずっとゼルク・スタントンなんだけどなぁ。
ともかく、あまり印象はよろしくないようだ。
やっぱり学園トップの有望株を負かしたのがいけなかったのか。
とはいえ、再就職を確実なものとするためにはあそこで負けるわけにはいかなかったしな。
彼は合格したから問題ないだろうと思っていたけど、そうもいかなかったらしい。
――ただ、悪いことばかりではなかった。
「あんな老害の戯言なんか気にする必要はありませんよ。魔法兵団に所属していない者が複数属性の魔法を自在に使いこなしているという現実が受け入れられないだけですから」
そう声をかけてきたのは若い女性だった。
彼女は……修練場にもいて、俺の試合を見ていたな。
あと凄い美人。
それにしても、老害とはまた辛辣だな。
ただ、周りにいた人たちの感じから、この女性もまた魔法兵団の幹部と予想される。
だからこそ臆することなく言えるのかな。
よく見ると、彼女の制服にはいくつもの勲章がつけられていた。
シャーリーより三つか四つほどしか年齢が変わらないようだが、もうすでにそこまでの実績をあげているなんて。
「あなたの戦いぶりは見事でした。さすがは伝説の大魔導士ですね。戦ったうちの弟も憧れていたあなたに負けるのなら本望でしょう」
「い、いや、そう呼ばれるのはどうにも――って、弟?」
「申し遅れました。私はアマンダ・ベインズ。先ほどあなたが戦われたギルバート・ベインズの姉です」
ギルバートのお姉さんだったか。
言われてみれば、どことなく顔が似ているな。
「あの【炎麗】が師と仰ぐに相応しい実力……これで魔法兵団は安泰ですね」
「【炎麗】?」
「シャーリーの異名ですよ」
あの子……そんな異名をつけられるくらい活躍していたのか。
「歓迎しますよ、ゼルクさん。あなたのようにこれまでの常識を覆すような実力者は、この魔法兵団に蔓延る古臭い考えを改める絶好の機会となるでしょう」
「は、はあ……」
随分と規模が大きな話に……そこまで貢献できるか分からないけど。
驚いていると、遠くからアマンダさんの名を呼ぶ女性の声がした。
「それではこれで失礼します。今度は入団式でお会いしましょう」
「え、えぇ」
足早に立ち去っていくアマンダさん。
しかし、彼女がギルバートのお姉さんだったとは。
なんだか今の魔法兵団の在り方に不満がある感じだったな。
「って、俺ものんびりしていられないな。宿を探さないと」
優先してやるべきことがあるのを思い出し、俺も小走りに修練場をあとにする。
「お疲れ様でした、先生」
外へ出ると、シャーリーが待っていた。
「学園トップを相手に見事な勝利でしたね」
「ありがとう、シャーリー。――っと、君のことは先輩と呼んだ方がいいかな?」
「今まで通りで構いませんよ」
「じゃあ、炎麗のシャーリーで」
「っ!? ど、どこでその名を……」
俺が炎麗の名を出すと、彼女の表情はみるみる曇っていく。
あれ?
もしかして……気に入ってなかった?
「その名前は好きじゃないのか?」
「あまり好きではありませんね。他の三人と比較されているみたいで」
「そうなのか。――うん? 三人?」
「先生もよく知る三人ですよ?」
お、俺がよく知る三人?
それってつまり……かつてコリン村にいた子ってことか。
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