第7話【幕間】敗北したからこそ見える景色
何が起きたんだ?
状況をまったく理解できないまま、俺はなぜだか青空を眺めていた。
直後、視界を知らないおっさんの顔が覆いつくした。
「大丈夫か? 意識はあるか?」
「えっ? あ、ああ……平気だ」
「ならよかった。ほら、次の試合が始まるから下がって」
「次の試合? ――あっ!」
そこでようやく俺は魔法兵団の入団試験中であることを思い出す。
対戦相手は謎のおっさん。
おまけに、俺の憧れる大魔導士ゼルクと同じ名前。
……腹が立つ。
王立魔法学園を歴代で比較してもトップクラスの成績で卒業したこの俺が、なぜこんなおっさんを相手にしなくてはいけないのか。
なんでも、魔法兵団の有望株であるシャーリーさんが推薦し、グラムスキー兵団長がGOサインを出したらしいが、ハッキリ言って迷惑この上ない。
しかも、話によればこいつは元農家だって言うじゃないか。
対戦相手の発表があってから、念のため家の者に情報を集めさせたのだが、まさかの職業に愕然とした。
百歩譲って名のある魔法使いの家系だとか元弟子とか、そういう要素があるというならまだ分かる。
しかし、村人を相手に子ども騙しのちゃちな魔法を披露しているだけという評判。おまけにそんなヤツがずっと憧れ続けている大魔導士ゼルクと名乗っているなんて。
虫唾が走る。
許せるはずがない。
後悔させてやると挑んだが……結果は惨敗。
信じられない結果に、俺は茫然自失。
パニック状態だった。
あの時、俺は何を見た?
これまで誰ひとりとして打ち破れなかった、俺の炎魔法。
学園の教師の中にだって、完全に防げた者はいない。
にもかかわらず、ヤツはそれをあっさりやり遂げた。
それどころか、きっちり俺に反撃をしてきた。
学園在籍時には一度も負けたことがないのに――
「まさか……あの人は本物の……」
実在するかどうかさえ不明だった伝説の大魔導士。
魔法兵団の幹部は頑なにその存在を否定し続けていたが……それより、あれほどの実力を持った人がこれまで表舞台に出てこなかったなんて。
いつの間にか、俺の中にあった憎悪は消え去り、不思議な感覚が芽生え始めていた。
俺は……ずっと憧れていた人物と戦ったのかもしれない。
ステージから降りた後のことはよく覚えていなかった。
いろんなヤツらに声をかけられた気はするが頭には残らず、ただ黙ってそのあとの試合を見続ける。
すべてが終わり、「試合には負けたが、あの炎魔法は素晴らしかった」という理由で俺の合格が伝えられても、感情が微塵も動かなかった。
生まれて初めての敗北。
その味を噛みしめつつも、俺の中でさっきの不思議な感覚がドンドン大きくなっていく。
「……確かめてみなくては」
やがて俺の視線は試合から外れ、シャーリーさんと話し込んでいる彼の方へと向けられていた。
ゼルク・スタントン。
伝説の名をかたる元農家。
仮にもし本人だとするなら……魔法兵団は手放さないだろう。
俺との戦いを見てどう思うか。
これからの対応が見ものだな。
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