第5話 有望株の実力

 修練場では中央に作られた石造りのステージを舞台にし、一対一の決闘方式で入団試験が行われた。


 周りには試験の順番を待つ者の他に、魔法兵団の幹部と思われる人物もチラホラ見受けられる。審査員は別にいるので、恐らく何か別の目的で集まっているのだろう。


 ――で、それは恐らく俺を見るためではないかと予想する。

 本人の知らない間に、俺の名前は大魔導士として知れ渡っているらしい。

 田舎町で穏やかに暮らしていただけなのになぁ。


「両者、準備はいいか?」

「あ、はい」

「いつでも」


 気がつけばもう試合が始まる直前だった。

 審判は俺とギルバートに怪我防止のための防御魔法をかけ終えると離れていった。


 一定のダメージ量に達する防御魔法の効果が切れ、強制終了となる。

 勝敗はそれで決するというわけだ。


 その時、ギルバートの鋭い視線が突き刺さる。


「おいおっさん。戦いを前によそ見とは随分と余裕があるじゃねぇか」

「えっ?」

「怪我したくなかったらとっとと棄権しな」

「いや、そういうわけにはいかない」

「はっ! 怪我をしても知らねぇぞ。今の俺は最高にむしゃくしゃしているんだ。――あの大魔導士ゼルクの名をかたる不届き者がいると教えてもらったからなぁ」


 さっきより口が悪くなっている。

 近くにシャーリーがいたからかな。


 というか、偽物のゼルクって……たぶんそのゼルクって俺のことで間違いはないと思うんだけど、彼は信じていないらしい。


 ともかく、審判が「はじめ!」と試合開始の合図を出し、いよいよ戦いが始まる。


「さっさとケリをつけてやる!」


 自信満々のギルバートはいきなり魔力を全開。

 集まった魔法兵団幹部にいいところを見せようと張り切っているようだ。


「炎の精霊よ! 我が声に応えよ!」


 彼は炎属性の魔法を得意としているらしく、全身にまとわせた魔職は一瞬にして真っ赤な炎へと姿を変える。


「ほぉ、やるじゃないか」

「さすがは王立学園の首席」

「あの若さで見事な手並みだな」


 周りから感心する声が聞こえる。


 ――って、いかん。

 集中しなくては。


 周りの雑音が耳に入るようではまだまだだ。


 防御魔法で守られているとはいえ、あの巨大な炎の渦を真正面から食らっては無事じゃ済みそうにないな。

 威力もそうだが、詠唱から攻撃態勢に移るまでのスピードも速い。

 実戦形式の鍛錬を積んでいる証拠だな。


「灼熱の炎矢よ! 我が敵を焼き射貫け!」


 ギルバートは魔力を炎の矢に変えると、それらはまるで豪雨のように俺へと降り注いだ。

 

凄い数だな。

 百以上は確実にある。


 魔力を炎に変換させるだけでもなかなか難しいのに、それを大量かつ高クオリティで生みだすとは。

 

 学園をトップ成績で卒業した実力は本物のようだ。

 

 さすがは有望株と言われるだけはある。

 さて、直撃する前にこちらも反撃に移ると仕様。

相手が炎魔法を使うというなら、水魔法で迎え撃つというのが定石だろう。


「水の聖霊よ。我が声に応えよ」


 こちらが魔力を水へ変えた直後、ギルバートの魔法攻撃が俺へと解き放たれた。


 さっさと終わらせようという魂胆なのだろうが、俺もここで試験に落ちたら路頭に迷うからな。

せっかく王都まで足を運んで試験を受けているのだ。

 悪いが――少しばかり張り切らせてもらおう。

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