第4話 入団試験

 ジリリリリ――


 魔導列車の発車ベルがラーバント駅構内に鳴り響く。

 同時にドアは魔力によって自動で閉まり、安全を確認してからゆっくりと動き出した。


「初めて乗るけど、案外快適だな」


 どういう仕組みで動いているのか気になるところだ。

 素材があれば自分で作れるかもしれないし。


 ――っと、いけない。

 今は入団試験に集中しなければ。

 あと、純粋に生まれて初めて乗る魔導列車を堪能しないと。


 乗車券に書かれた座席に腰を下ろし、窓からの風景を楽しむ。

 しかしさすがは国内でも有数の大都市であるラーバント。

 そこはコリン村と近くのちょっと大きめの町以外に足を運んだことがない俺にとっていろいろと衝撃的な場所だった。

 村とは比べ物にならないほど人で溢れかえっており、前進するのさえひと苦労という状況がいつまでも続くのだからな。


ホント都会人はよくあんなところに住めるなと感心してしまう。

生まれも育ちも山間の小さな農村なのでああいう人込みというのはどうも慣れない。

 

……でも、もし入団試験とやらに合格したら王都勤務になるんだよな。

 まあ、そもそも俺の実力では勝てっこないので考えるだけ無駄か。

 

それよりも向こうで新しい職を探した方がいい。

 王都ならきっと仕事もたくさんあるだろうし。


ボーッと窓の外の景色を眺めつつ、俺はこれからのことについて考えた。


 シャーリーがコリン村を訪れてから数日後。

 最後まで村に残っていたのは俺を含めて三人となっていたが、この日とうとう全員がそれぞれの道を進むために旅立つこととなった。


 ロニーさんは隣村へと移住し、農家を続ける。

 ケビンさんは妹さんの住んでいる町へと移住し、そこで隠居生活を楽しむそうだ。


 そして俺は――なぜだか王都で魔法兵団の入団試験を受けることになっていた。


「あんたならきっと受かるよ」

「そうじゃそうじゃ。自信を持てい」


 ふたりとも酒の席ではよく俺に「それほどの実力があるなら魔法兵団に入れ」って言っていたっけ。あの時は酔っ払いの発言だと笑っていたが、まさかシャーリーも同じようなことを口にするなんてな。


『まもなく終点【王都】に到着します。席を離れる際はお忘れ物にご注意ください』

「おっと、もう着いたのか」

 

 馬車なら数日はかかる道のりも、魔導列車ならわずか数時間でたどり着ける。

 まったく、便利な世の中になったものだ。


 生活に必要な最低限の荷物を積めたバッグを手にし、列車を降りる。

 改札を通過して西側の出口から駅を出ると、事前の通達通りシャーリーが待っていた。


「ようこそ、先生。さあ、こちらの馬車にお乗りください」

「あ、ありがとう」


 約束をしていたとはいえ、本当にお出迎えしてくれるとは。

 緊張しながらも馬車に乗り込み、王都の東端にある魔法兵団の詰所へと移動を開始。


 馬車の中ではシャーリーが魔法兵団に入るまでの経緯を語ってくれた。


「私もいつか先生のような立派な魔法使いになるべく、王立学園に入って研鑽を積んでまいりました」

「いや、俺の本業は農家だぞ? 魔法はあくまでも特技の範疇でしかない」

「またまた御謙遜を。私は先生に炎魔法を教わりました。今の私があるのはあの時の指導のおかげです」


 確かに俺は彼女に炎魔法を教えた。

 だが、初歩中の初歩であり、魔導書を読み込めば誰だって扱えるレベルのもの。

 それを噛み砕いて幼い子どもでも分かりやすいように説明をしただけだ。


 しかし、どうもそれがなかなか凄いことらしい。


「先生がコリン村でやっていたことは並みの魔法使いのできるレベルではありませんよ?」

「えっ? そうなの?」


 正直、俺は魔法兵団に所属する魔法使いと直接顔を合わせたことがない。

 なので、どれほどの実力を持っているのか――実際のところ詳しいことは分からなかった。


 それでもたかが農家が特技程度で習得できる魔法など軽く扱えるだろうし、俺がこれまで相手にしてきたモンスターたちとは比較にならない大物とも戦っているだろうから叶うわけがないと思っていた。


 ただ、シャーリーの口ぶりからするに、実はそうでもないのか?


 あと、彼女からかつてコリン村に暮らしていた者で魔法兵団に入った者や、それ以外の道で活躍している者たちの話を聞いた。


 みんなそれぞれの分野で大活躍をしていると笑顔で語ってくれたが、それは俺のおかげではなく各々の努力の賜物だろう。

 だが、シャーリー曰く、みんな俺に感謝しているという。


 きっかけにはなったのかもしれないが、大袈裟すぎやしないか?


 そんな疑問を抱いているうちに目的地に到着。


 さすがは王都にある魔法兵団の本拠地。

 かなりレンガ造りの大きな建物だ。


「入団試験は裏にある修練場で行われます。さあ、行きましょう」

「あ、ああ」


 圧倒されたまま、俺はシャーリーの案内で試験会場となる修練場へ。

 そこには入団を希望する多くの魔法使いたちが集まっていた。

 

 ――が、ここで俺はある事実に気づく。


「若い子ばっかりだな……」


 入団試験というだけあって、大半は王立学園を卒業予定の学生さんばかり。

俺のように中途採用的なポジションで受けている者は他に見当たらなかった。


「試験内容は実戦形式になります。防御魔法で安全を確保したうえで勝負し、その戦いぶりを評価する形ですね」

「勝敗は関係ないのか?」

「はい。あくまでも合格の基準に達していれば問題ありません」


 合格の基準、か。

 自信はないが、ここまで来たらやるしかないか。


 気合を入れ直していると、そこへ試験を受けると思われる三人組の若者がやってきた。


「シャーリーさん、そちらにいるのが俺の対戦相手ですね?」

「ギルバート……そうだ。ゼルク・スタントン先生だ」

「なるほど」


 ギルバートと呼ばれた少年はジロジロとこちらを見つめ、しばらくするとわざとらしく大きなため息をついた。


「ふーん……伝説の大魔導士と噂されるゼルク・スタントンが、まさかこんな冴えないおっさんだったとは」

「ギルバート! 無礼だぞ!」

「ああ、すいません。俺ってほら、根が正直者ですからね。忌憚のない意見ってヤツですよ」


 ヘラヘラと笑う、ギルバートは「この後の試験では手加減なしでお願いしますよ、伝説の大魔導士殿」と告げて仲間たちとともに去っていく。


「申し訳ありません、先生……あとで締め上げておきます」

「そ、そこまでしなくてもいいよ。それより、俺は彼と戦うのか?」

「はい。第一試合が先生とギルバートになります」

「そうか……あっちは凄い自信だったね」

「王立学園を過去最高成績で卒業したということもあってか、最近では手が付けられないほどのぼせ上がっているようです」


 歴代でも屈指の好成績で家柄も良い。

 止める者がいなければ増長もやむなしか?


 いや、それでもきちんと育っている子はいるから、環境次第なんだろうな。


 しかし、そんな子と試験で対戦することになるとは。

 これで俺の合格はさらに遠のいたか?


 シャーリーの話では勝敗は関係ないとのことだったので、とりあえず瞬殺されないように気をつけよう。


「それでは入団試験を始めます」


 試験管と思われる男性がそう呼びかける。

 同時に、最初の対戦カードである俺とギルバートの名前が告げられた。

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