田舎の商店の小さな祠

西空 数奇

オノコサマ?

僕の実家は人の数よりも虫の数が多いんじゃないかってくらいの田舎で大学への入学を機に上京するまでそこに住んでいました。上京してから帰らなくなったとかそういう事もなく夏休みなどの長期休みはもちろん、土日を入れた3連休などになれば必ず実家に帰省します。まあ結局のところまだ自立出来てなくて親に甘えてちゃってるんでしょうね。お恥ずかしい限りです。

都会での暮らしが嫌なのかと言われればそんなこともなくて真夜中でも開いているお店がどこに行ってもあり不便さを感じることはありません。あれ本当に凄いですよね。僕の地元なんかコンビニなんて自転車で20分くらい漕いでいかないとないし、近所でどうしても買い物するとなれば隣にあるおばあちゃんが一人で切り盛りしてる小さい商店くらいしかありませんでした。

小さい商店の品揃えとしてはポテチやチョコのような定番のお菓子と、後は霜ががっつり張った状態の年代物の冷凍庫?みたいなものにアイスがそれぞれ少しずつ置いてあるくらいでした。今書いてて思ったんですけどほぼ駄菓子屋みたいですね。

その商店ですが、敷地内の本当に端っこの方にちょこんと小さい鉄製の祠みたいなのがあったんです。小さい頃から当たり前のようにあったので疑問に思わなかったんですけど、いつも観音開きの扉が閉まってたんですよね。1回だけ小学生の時、好奇心でその祠の中を見てみたいと思って近づいた事ありました。そしたら丁度、店のおばあちゃんが通りがかってその様子を見られてしまい、滅茶苦茶怒られました。何でも見たらオノコサマがお前を食いに来るとか何とかって。普段は温和で怒るような人じゃなかったのでそんな人が怒るくらいなんだから相当な事をしでかすところだったんだと落ち込んだことを今でも覚えています。そんな事があったからかそれ以降祠に近づこうと考えたことすら無かったです。というか見えてるけど認識しないようにしていたといった方が正しいですかね。

両親から隣のおばあちゃんが亡くなったと聞いたのは、今年に入ってからでした。多分、ゴールデンウィークに帰った時だったかと思います。

商店の旦那さんも5年前くらいに亡くなっていて、息子さんも一人居るんですが早くに家を出てから帰ってきてないようだったのでおばあちゃん一人だけが住んでいる状態でした。

ともあれ隣の小さな商店は空き家になってしまいました。今後、どうするつもりだろうかと両親も近所の人と話していたみたいですが、先月取り壊すことが決まったみたいです。多分、息子さんが業者の方に依頼したものだと思われます。

業者が下見に来るなり早速、祠をどうするかという話になったとのことでした。よく噂に聞くように解体現場にある祠を蔑ろにして解体を進めた結果、痛い目を見たというのが実際にあるらしく業者もそれを気にしてその話になったとのことでした。それから業者の方で地元の住職さんと祠を撤去する手筈が整い、遂に今日その儀式を行うことになりました。

小さい頃に怒られて以来、素知らぬフリであまり祠の事を気にしてこなかった僕ですがやはり中身が気になってしまい夜も眠れなかったので隣だったという大義名分(?)を利用してその儀式に参加することにしました。

儀式は魂抜きという名前らしく事前に撮影することが出来ないと伝えられました。そのため写真や動画を残すことが出来なかったのが非常に惜しいですが事務処理をするかのように淡々と行われていて少し拍子抜けした感はありました。

まず、住職さんがお経(?)を唱え始めてその間僕含めた参加者全員は後ろに用意されたブルーシートに正座していました。15分くらい経過してやっと読経を終えた住職さんはいよいよ祠に手を掛けて、ゆっくりと扉を開けました。その時一瞬、住職さんのうめき声のようなものが聞こえた気がします。すると祠から黒い塊のようなモノが落ちてきました。これが件の祠の中身かと感動を覚えたですが、次の瞬間黒い塊の正体に気付いて鳥肌が立ちました。それは無数の蝿や蚊の死骸が集まって出来たものだったのです。参加していた皆、悲鳴こそ上げませんでしたが驚いた後、困惑するような表情を浮かべていました。僕も同じです。

と同時に中身がこのような代物であれば見られまいとあの時おばあちゃんが血相を変えて怒った理由が分かった気がします。

だからといっていつからあったのか、どういう経緯があったのかという疑問は残ったままです。詳しく調べようと思えば調べられるかもしれませんが温和なおばあちゃんの裏の顔を知ってしまったような気がしてこれ以上は気が進みません。なのでこの話はこれで終わります。

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田舎の商店の小さな祠 西空 数奇 @gin_karashimayo

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