第20話 過ぎたこと

「お前…早く起きろよ…」


うるせぇな…別に良いだろぉ…?まだ寝てて…


「駄目に決まってんだろ!!!!俺の体借りといて本人にそんなこと言うか?普通さぁ!!!」


別に良いじゃねぇか…最近は上下関係とか…そういうの気にせず行こーって人類が目標に掲げてんだからさ…


「Vはどうなっても良いのかよ!?」


なわけねぇだろおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!


目を開けた。

瞳に飛び込んだのは、水色の液体に包まれる視界。

液体の奥には、数人の白衣の男達が並ぶ。


「自立式生物兵器…YUMの起動実験及び、魂の生成に成功しました!!!!」


閉じ込められたガラスの向こう側で、どっと男達が喜ぶ声が聞こえた。


「まあ…当然か…今のところの機能は?何が働いている?」


「思考力、自意識、視力、聴力などが働いています!!」


「じゃあ、意識はあるわけか…おーい?聞こえているか?元の体の奴の魂は殺してるから、こいつは新しい体の主なわけだけど…お前は生物兵器だから、俺らに従うようになー?」


マスター承認しました。自立式生物兵器YUMの能力を確認。DEAD MOEDを起動しますか?」

無機物な声が口の中から発せられる。


「いいや。それはまた今度で良い。それよりも今はシャットダウンしてくれ。」


「承認しました。シャットダウンをします。」


そして目の瞼が下される。


遠ざかっていくように、「それじゃあ、脳みそ弄るぞー。とりあえず学習機能と主人に逆らわないようにしろー。それとVに思考を読み取ってもらえー。ライラも用意しとけー」


意識が遠のいていった…



「YUM起動。これ…見えてるのかな…?」


「視界接続完了。主人マスターではありません。非認証。」


「こっちだ。俺の名前はセルーとかでも呼んでくれ。」


「セルー様…この子が私の教育に入るぅ…えっと…名前…」


「AI」


「そうでした!!AIの子ですか?」


「ああ。今日からこいつの言う通りにしてくれよ?」


「それでは、主人マスターの権限をこの女性に授与しますか?」


「ああ…そうか。やってくれ。」


「承認しました。主人マスター。これからよろしくお願いします。」


「よろしくね!うーん…YUMだと言いにくいからそうだなぁ…ユミーくんで良い?」


「ユミー。承認。自立式生物兵器ユミーです。」


「変な名前つけやがって。」


「いえ!まずは形からです!それじゃ、ユミーシャットダウン!」


「承認。シャットダウンします。」


目の瞼が再び落ちる。

視界が暗闇に染まり、意識が遠のいた。




「ほら、V!挨拶して!!!」


目が覚めると、そこにはショートヘアーの黒髪の小さな女の子が居た。


「こんにちわ……………」


「生体反応確認。」


「ユミー。この子はVちゃんだよ。ほら、ユミーも挨拶して!」


「Vちゃん…こんにちわ?」


「そうそう!!!上手上手!!!これからはVちゃんとも仲良くしてあげてね!!」


「承認しました。Vちゃんと仲良くします。」


「よしよし」


頭に人間の手の重みが掛かる。


「それじゃあ、シャットダウン!バイバーイ!!」


「ばい…ばい…」


目の瞼が重りようにのし掛かる。

意識が遠のいていく。


「ユミー…起動…」


「ユミー起動しました。今回の目的はなんでしょうか?」


マスターの頭にセルーという男が拳銃を突き刺している情景。

助けを求めていないと言う事は、助けてなくて良いと言う事。


「ユミー…外にいる軍隊を全員殺して…!!!!」


「承認しました。DEAD MODEフェーズ6に移行します。」


意識が途絶える。

その後何があったかは定かではない。




「ユミー起動!!!!!」


今度、目を開くと、そこには口から血を吐いたマスターの姿。


「生体エネルギー低下を確認。治療機能を使用しますか?」


「いいえ…」


マスターの後ろでは赤いライトが光を放ち、赤い火が部屋の中に吹き上げる。

そして、マスターのすぐ横には倒れたVちゃんが居た。


「私からの…最後の命令を下します…」


弱々しい声で呟くマスター


「実験所MERは…今、実験の失敗により壊滅状態にあります…」


お腹から流れ出ていく血液。

マスターはもう助かりそうにない。


「そして…私たちも今…崖っぷちの状況にあります…なので…ユミー…あなたには…これから…この子…Vちゃんを日本の起眞市と言う所まで運んで行ってもらいます…あなたに託された特別な力が…Vちゃんを救う手立てと必ずや、なってくれるはずです…あなた達は…これから色々な敵と出逢おうかもしれません…でも、その時…あなたはVちゃんを…必ず守護しなければなりません…」


そして、マスターは荒げた声で最後に一言。


「Vを…守ってね…」


マスターの頬には何粒もの涙が流れていた。


「承認しました。DEADMOEDフェーズ5に移行します。」


Vを両手でしっかり抱きしめると、MERの天井を突き破り、外へと脱出する。


ここで意識が途切れたようだ…


「懐かしい記憶だったなぁ…」


「そろそろ起きる時間なんじゃないか?」


「なぁ…そうだろ?」



ユミー______________




「その…Vくん…ユミーくんとは、恋人同士…なのか?」

唐突にユミーさんの専門医師が訪ねてきた。

どうしようかと思っていた矢先、先に来たのは、あっちからだった。

「一応…そう…ですね…でも…もしかしたら私は…ユミーさんの恋人じゃないのかもしれません…」

「それはどういうことで?」

「前にも説明した通り…ユミーさんはAIです…ユミーさんは、研究所を脱出したとき…その時の当時のユミーさんの主人に私を守れと言いました…もしかしたら…その言葉が今もまだ残っていて…ユミーさんが本能的に私を守るようにされている…だから私の事が好き…という可能性は無いのでしょうか…?」

「えっと…つまり…Vくんを守るために、無理矢理ユミーくんの脳が勝手にVくんに対して好意が溢れ出るように設定されていると…そういうこと?」

「まあ…はい…そういうことです…」

「まあ…ありえない話では無い…か…でも、実際好感度があるのであれば、それで良いんじゃないか?」

「ですが…ユミーさんは、頭が無くなると、その度に再生しますが…そのうち…頭の構想が変わってきて…それで…その制御装置が壊れたりして…働かなくなって…私の事を守ってくれなくなる…私の事を好きじゃなくなる…ってそう思ってしまって…」

「つまりVくんは失恋するのが怖いのかい?」

「失恋するのが怖くない人なんているのでしょうか…?」

「………んー…私は恋愛をしたことがなくてね…でもまあ…言えることは…好きじゃなくなったのなら、色恋を使うのが一番良いと思うけどね…」

「色恋…というと?」

「本能的な交わり?まあ、生物的な交わりだよ。私はあまりそっちの方は乏しいのだが、一度交わった相手とは恋仲の関係に落ちることが高確率であるらしい。要するに、一回やってみれば勝てるって訳だ。」

「で…でも…」

「前確認したが、ユミーには十分な生殖器も備わっている。多分できると思うぞ。」

「で…ですが…」

「ユミーに裸を見られるのが嫌か?」

「あ…いえ…そういうわけでは…ですが…ユミーさんがどう思っているのか…」

「………でも、君のような体付きの女性が裸で歩み寄るのを我慢できる男はこの世にはいないと思うぞ?ちなみにVくんのサイズは?」

「え…えっと…Jです…」

「私にも分けてくれないか?」

「ん…ん…んわぁ…!」

目がようやく開いた…

ってここはどこ…だ?

「え…えっと?ここは?」

病室のようなベットにほぼ全裸の俺。

いやてか全裸だし…

目の前にはVと、そして子供のような白衣を着て自分の胸を触っている医者のような人。

「ゆ…ユミーさん!!!!」

そして、ほぼ全裸でまあまあ恥ずかしい俺に抱きついて、泣き始めるVちゃん…

え、俺…このまま動けないのか?

「勝手に行かないでくださいよ!!!!」

「え?あ…ごめん。」

俺はとりあえず、涙を流すVを宥めるためにVの背中を両腕で寄せ付ける。

「えっと…俺が眠ってから何日経った?」

「大体1週間くらいかな…?ユミー君目覚めたみたいだね。もう退院して良いよ。」

「え?雑くね?」

「君は不死身のパワーが宿ってるんだろ?大丈夫さ。それじゃあ、私はこれで。」

そういうと、小さな医者は病室から出て行った。

服が欲しいという俺の願いも聞かないまま。

その後、俺はDEAD MOEDフェーズ4にまでなって服を生成した。







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