第16話 KM’s BAR

エンジンを蒸してビルとビルの間を走る。

時計は午後22時を指している。

ランボルギーニ・ヴェネーノのナビの上にスマホを置くと、スマホの中からは、AIの少女、アイの声が聞こえてきた。

『そういえば、ユミー様のことはなんと呼べば良いでしょうか?主人シュジンアルジ?はたまたマスターとかでしょうか?』

「いや、ユミーで良い。」

『それでは、ユミー様。質問があるのですが。』

俺はナビ兼喋り相手のスマホに目を向けると、再び青く染まったのを確認し、アクセルを踏む。

「なんだ?」

『ユミー様は、なぜこの車を運転できるのですか?ユミー様は今はまだ17歳ですよね?』

横のギアを1から2に上げて、俺は、答える。

「まあ、平たく言えば、免許を持っているからかな。」

『免許。つまりは、偽造ってことでしょうか?』

「まあ、大体似たようなもんか。そんな感じ。」

『では二つ目の質問です。今、私たちはどこへ向かっているのですか?』

俺はナビの方を見る。

「ど、どこって…わかるだろ?なんとなく。」

『はい。ナビには、KM’sBARと表示されていますが…』

「まあ、わかる通り、そこはバーだよ。」

『バー?バーとは、バーテンダーという役職の人が、欧米風の洋酒を提供する場だと検索した時には総合的には、そのように解釈しますが…ユミー様は未成年ですよね?なぜですか?』

「まあ、行けばわかるさ。」

俺はビルとビルの間を通り抜け、夜の街を通り抜け、商店街を通り抜ける。


起眞市キマシ北区キタク黒蓑町大通クロミノチョウオオドオ

ランボルギーニを近くの駐車場に留めて、俺はKM’s BARに向かう。


少し暗い、街の通りを一人で、いや、一人と一機で通る。

『起眞市にはこんなところがあったんですね。』

「まあな。」

俺は腕時計を触り、服装をというところを選び、服装を普通の服装から、スーツに切り替える。

スーツに切り替え、決定を押すと、すぐさま、今来ていたラフな格好は青い光を放ちながら、消えていき、代わりにスーツを一瞬で身に纏うことができた。

「よし。」

目の前に迫ってきた、KM’s BARの一つだけ照らされた看板の入り口の中に入る。


チリンチリン。


木製の扉を開けると、狭い空間の中には、棚いっぱいに並ぶ、酒の瓶の数々と、3つしかない洒落たライトに照らされる女性の姿と、いつも通りのマスターの姿があった。


「いらっしゃいませ。ユミー様。」

「やあ、まあ、まずはいつもので。」

「かしこまりました。」

俺がせきに座ると、隣にいた、大人っぽい服装をした女性が、「あれ?」と声をかけてきた。

「やっほ。V。昼ぶりだな。」

「ユミーさん…」

バーに居たのは、Vだった。

まさか…こんな偶然があるなんてな。

「まさか狙ってきました?」

「ふ…いや?全くの偶然だね。」

静かなに洒落た空間、俺とVはそこで、少しオトナな雰囲気を味わいながら、言葉を交わす。

「今日はなんの用できたんですか?」

「ちょっとした在庫チェック。どんなのがあるかな〜って思いながらきたんだ。」

「そうなんですか…そういえば、今日の任務…どうでした?」

俺は、Vの横顔を見つめた後、再び、前に向き直す。

「えっとな…結論から言うと、起眞市にMERの新薬が流通している理由が少しわかった。」

「……本当ですか?」

「ああ。本当だ。」

「それは一体どんな…」

俺は、腕時計の中から、ある写真を一枚取り出す。

「これは?」

写真の中に写っていたもの。

それは、古びた中国風な建物だった

黒を基盤として、塗られた壁などは、まさに廃墟のようだった。


「これって…」

「咲森区にある、起眞中華街のある一つの店の写真だ。まあ、元ではあるけど。」

「これがなんだと…?」

「ここ…今はヤクザの巣窟になってるらしくてな。どうやら新薬を使って最近は暴れまくってるらしい。違法取引もやってるとか、よく聞くから、少ししばきに行こうかと思ってな。」

「そうなんですね。」

『でも、それがここと何に関係があるんですか?』

ポケットの中でスマホが震えながら、しゃべった。

「え?今のは?」

「あ〜そう言えば、まだ言ってなかったか。」

俺はスマホを出すと、画面上に浮き出す、アイをVに見せた。

「こ、これは…ユミーさんてそういう趣味?」

「いや違う!!!」

俺は全力で否定した。

「これは、MERの開発途中のAIでな…まだ人格がはっきりしてないんだよ…」

『私はMER出身、高性能型多機能AI。ユミー様に名付けられたアイという名前を現在は名乗っています。』

「な、なるほど…よろしく…」

『よろしくお願いします。』

「それで持って、まあ、こいつが人格が現れるまで、しばらく俺らで預かろうと思ってるんだ。」

「なるほど。そういうことですか…まさか、ユミーさんが、こんなチビの少女に発情してんのかと思いましたよ…」

なんかV…やけに使う言葉が刺々しいな…

まさか…

『私はチビではありません。私はデータなので、大きさはわかりませんが、それこそ、こんな小さなスマホでなく、都会にあるような大型ディスプレイなどに、映れば、私だって3m以上は身長は大きくなれます。』

「はぁ…それって結局、自分を大きくしただけで…」

「あー…まあまあ…ここはバーなんだし…せっかくだから、運ばれてくる飲み物を飲もうぜ?Vもな?ほら!」

「ユミーさま。お待たせいたしました。至高のフルーツジュースです。」

俺の目の前に、出されたのは、アルコール0。そして、子供も飲めるただのジュースだ。

この店、KM’s BARは、子供でも飲めるドリンクがあり、子供でも、大人のようなバーの雰囲気が味わえるという、色々な人に対応出来るというのが売りのバーだ。

そのため、このように、ただのジュースなども提供することができ、俺はそれを目的に足を運んだりすることもある。

まあ、本当の目的はこれからなわけだけど…

「まあ、そんなこともあって、せめて、武器くらいは新調しようと思ってな。」

「武器って…また殺し合いになるんですか?」

「相手はそのつもりだろうな。俺はまあ、足か手か撃ち抜けば良いってだけなんだけどさ。」

「他に方法はないんですか?」

「まあ、無い…だろうな。まあ、今日の武器の品揃えを見てからにするよ。そんじゃ、マスター。、よろしくな!」

「承知しました。こちらでございます。」

俺は、マスターから、ワインのような赤みを持った飲み物を出されると、すぐに、グラスの底を手で触って調べる。

すると、グラスの裏に、鍵のような物が付いてた。

「そんじゃ、行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃいませ。」

俺は、小さなバーに備え付けられたトイレに入ると、トイレの内側にある、鍵穴の中に、先ほど受け取った鍵を差し込み、右へと回す。

ガコン!!!!

何かが外れるような音がすると、エレベータのような下降している感覚がしばらく俺を襲った。

少しして、再びガコン!と音が鳴ると、自動的に扉が開く。

そしてその先には、新聞を読んでいたのか、カウンターでぐっすりいびきを立てながら寝ている少年のすがたがあった。

KM’s BAR、表の存在は健全なバーだが、裏の存在は銃器を専門的に扱う武器屋。

この武器屋には俺はいつもお世話になっており、いつしか俺はここの常連になっていた。

ライフルやサブマシンガン、拳銃が壁にズラリと並び、出入り口付近には弾薬を取り扱う自動販売機。

天井近くにはスナイパーライフルや機関銃が飾られており、個人的にはワクワクする並びだ。

「あ…おはよーございます…」

目を薄めたまま、少年は新聞を折りたたみ、椅子に座りなおした。

「まだ夜だけどな」

「今回は…何をお探しで?」

「グロック17を探死に来たんだが、あるか?」

「グロック…ですか?ちょっと待ってください。少し探してみます。」

「……最近はどんな客が来てるんだ?」

俺はパソコンを弄る少年、村井に質問する。

「最近ですか?最近は、結構闇組織とかは来てないイメージですね〜。まぁ、そもそも来たら、澤部さんがお引き取りさせてくれると思うので。」

澤部とは、KM’s BARのバーテンダー。先程、俺に鍵を渡してくれたその人だ。

「まぁ、たしかにな。」

「あ、グロックありますね。在庫確認してきましょうか?」

「ああ。お願い。」

そういうと、村井はカウンターの奥にある部屋の中に入っていった。

とりあえず、弾丸だけでも買っておくか。

俺は自動販売機の前に向かい、9mmパラベラム弾を購入し、全て、腕時計の中に収納した。

「はいはいはい…ありましたよ〜」

購入した所で、村井が部屋から出てきた。

「そういえば、ベレッタはどうしたんですか?」

「ベレッタはとりあえず、自分の部屋の中にあるんよ。まぁ、護身用的な?やっぱ戦闘にはグロックだろ」

「なるほど。あ、サプレッサー要ります?」

「ん?ああ。よろしく。」

「はい。」

全ての商品を腕時計の中に収納すると、俺はその店をあとにした。








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