第14話 untitled

「はぁ…はぁ…」

痣だらけで痩せ細った腕。

その腕で、ゴミ箱に捨てられた生ゴミにがっつく。

食料があるだけまだマシだ。

「はぁ…はぁ…」

茶色に染まった食べられるかどうかすら怪しい泥の様な物をひたすらに口の中へと放り込む。

「はぁ…はぁ…」

ゴミ箱を再び覗くと、食べられそうなものはもう無い。

「腹…減った…」

立てる力も無い…


目の前にあった空は、とても暗い。

雲で濁っている。


「あらあら。とても。とても可哀想な子供が一人。」

仰向けになって倒れて、もう、首を回す力すら残って居ない。


「あれ?死んじゃってる?」


でも、口を回す力は残ってる。

「腹…減った…」


「あらら」


「はぐ!!!!はぐはぐ!!!!!!」

「おおう。たんと食えたんと食え。腹が減ったんだろう?そりゃあ食わんとダメだ。まだ子供なんだ。ここで命を落とすにはもったいない。」

両手に米を握り、それを頬張る。

ツヤツヤとしていて、とてもハリがある。

こんなにうまい飯を食ったのはいつぶりだろうか。

こんなんを食ってしまったらもう、残飯を食べる生活には戻れない。


「それで?なんで君はここに?」

「親がいない。死んだ。」

「なるほど。祖父とか祖母とかは?」

「祖父?なんだそりゃ?」

「ほら、親の親だよ。」

「んなもん、居るわけねぇだろ。とっくに死んでるよ。そんなやつ。」

米を頬張りながら飯を食う。

米はこぼさないように。丁寧に喋る。

「あれ?そうなの?」

男に手を差し出し、ジェスチャーでもっと飯をよこせと、目線を送る。

服装からしてだいぶ豪華なやつだ。

財閥の奴らだろうか?

なら、今ここで全てを絞り取らなければな。

「え?まあ、良いけどさぁ…」

「ありがとな」

「どういたしまして。」


「そういえば、君以外に子供達を見かけないんだけど…どういうこと?」

「どういうことって…お前…米国人か?」

「え?いや、なんでそうなる?」

「……まあ良い。疎開だよ。子供は疎開。それが今の基本だ。わかるか?」

「疎開?なにそれ?」

はぁ、とため息をついた。

「いいか?少し前に都市部で空襲があったんだ。だから子供はみんな遠くの田舎に引っ越したんだ。わかるか?引っ越したんだ。」

「へー最近はそんなことがあったんだねー」

「お前なんだ?世間知らずにも程があるぞ?今が何年かも知らなそうだな?」

「え?今の年号位知ってるよ!!!」

得心のいかないような顔をして、「じゃあ答えてみろよ?」と聞き返す。

「えっと…1944年…9月10日…でしょ?僕だってそれくらい知ってるよ?」

「ふーん…ま、そこまでバカなやつじゃなかったみてぇだな…そんで、お前さんはなにしに来たんだ?」

「え?」

頭の足元から頭のてっぺんまでを見る。

米国を彷彿とさせるような白いスーツと、ちょっとかっこ付けるための帽子。

見ていて、実に不快になる姿だ。

「見るからに、毎日残飯を食い漁っている様な俺とは違うよな。おまけにスーツまで着込みやがって。こんな戦争の中で俺らとは違う生活してるんだろ?」

「いやいや、そこまでではないよ。最近なんて、飯2食が当たり前さ。ほんと、お腹が減って困っちゃうよ。」

くそ。こっちは飯が見つかったらラッキーって言うのに。

「それで?ここに来た理由はなんだ?」

「理由?」

「そんな豪華な生活してる奴らが、こんな腐った街に来るなんて、何かしらの理由があるんだろ?」

「腐った街ねぇ…ま、確かに、風俗も無ければ賭博場も無いし、花が無いからね…でも、僕は今日、君を見つけた。それが、目的かな。」

「俺?俺が目的でこの街に来たってことか?」

「そう。そういうこと」

「は!!!どうにかしてる!そんな緩い口調じゃ、女も口説けねぇぞ?」

「いいよ。女はそこらじゅうにたくさん居る。風俗に行ったらヤリ放題だしな。」

「は!本能に忠実なようで何よりだ!ガキに話すような内容じゃねぇだろ。」

「はは。ごめんね。まあ、本当の目的は、

素材探しさ。」

「素材探し?なんの素材だ?」

「僕実はね。新兵器を開発しようとしてるんだ。」

「新兵器?ということは、軍関係者か?」

「まあ、そんなところだね。」

「新兵器ってのは?なにを具体的に作るんだ?」

男はしばらく黙り込む。

「どうした?どっか痛いか?」

「いや、新兵器について意外と興味を持たないんだなってね。もうちょっと驚いてもよかったんじゃない?」

「あー。俺は新兵器には興味はないんだ。というか、負けても勝っても、俺らの生活は変わんねえぇよ。どうせ、ゴミを荒らすだけの日々。それしかねぇだろ。」

「ふーん。死んでも良いわけだ?」

「まあ。そういうことだな。でも…」

「でも…?」

「希望を持って生きてる…それだけは捨てられない。」

「死ぬ覚悟はできてるのに、希望は持ってるの?」

「もしかしたら…そんな言葉があるだろ?」

「まあ…そうだね。希望ね…」

「そんで?新兵器ってのは実際どんなのを作ろうと思ってんだ?」

「そうね。イメージとしては、幾つもの敵を、いや、軍を一瞬にして消し去れる強力な物を作ろうとしているんだ。」

「そんなものができるのか…?」

「ああ。僕の手なら、いくらだって作れるよ。」

「やるじゃねぇか。そんで、素材ってのは、どこにあるんだ?」

「うーん…あ!ちょうど今見つけた!!!あのゴミ箱の中」

男は、先ほどまで漁っていたゴミ箱を指さした。

「え?ほんとか?どれだ?」

「えーっとね…あ、そうそう。君の肉体のことだよ」

「は?」

次の瞬間、バアン!!!!と、銃声の音が響く。

「ぐは…」

骨格が浮き出る胸から血が流れ出る。

「なん…だと…」

「これ、アパッチリボルバーって言うんだけど、ポケットに入れられて、隠しやすいんだよね。まあ、至近距離でしかほぼ効果ないんだけど。まあ、その代わり、リボルバーとナイフとメリケンサックが全部、融合してるから、暗器にはすっごい便利なんだよね。」

「お前…なにが…」

「なにが目的かって?君の体が欲しかったんだ。一人の少年の体がね。まだ息があるみたいだし、もう1発ぶち込んで、お別れとしようじゃないか。」

「は…な、なんだ…と?」

アパッチリボルバーの弾が射出される穴をこめかみに押し付けると男は、

「そんじゃ、さようなら。哀れな少年くん」

と言って引き金を引いた。

バアン!!!!!!!!!





「ッは!!!!!!!」

ふかふかのベット。

隣にはVが寝込んでいた。

「こ、ここは…」

スマホを見ると、時計は2時を指していた。

「また…の夢か…」

「スー…スー…」

俺はよこにいるVを見る。

暗闇の中、気持ちよさそうに寝ている。

「ん…ユミーさん…一緒に…一緒にぃ…」

「い、一体どんな夢を見ているんだ…まさか…ホテルだからってことじゃないだろうな…」


『Vを…守ってね…』


俺は、誰かの言葉を思い出して、頭を撫でる。

「んふふ…ユミーさん…」

「だから…どんな夢を見てるんだ…」

俺は、再び、毛布をかぶると、Vを少し抱き寄せて、ふたたび眠りについた。


もう、離せないように…








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