第12話 囚われの姫
「ん…ん…」
うっすらと目を開ける。
閉じていた瞳に薄暗い光が差し込んだ。
湿気の含んだ空気と、埃っぽい石の香りが充満する部屋の中。
周りを見渡してみると、倉庫のように鉄の板で壁が構成されている。
あれ…
手足を動かして起こそうとしても、何故か手は後ろにまとめられ、動くことができない。
足も同様に、いくら開こうと力を入れても何故か、2つにまとめられたままビクともしない。
それに、口にはガムテームのようなものも貼られ、呼吸をするので精一杯だ。
「お!ようやく起きたかぁ!!!」
すると、倒れている私の視界に飛び込んできたのは、無精髭を生やした中年男性だった。
「ん!!!んん!!!!」
私は精一杯声を出すが、口はまともに開かず、まともな言葉も発することができなかった。
「何言ってんのかワカンねぇけどよぉ〜…不安そうなその顔はたまんねぇ〜なぁ〜!!!これが実験体、Vか〜」
「ん!?ん!!!!ん!!!!!」
な、何故それを!?
仕方ない…テレパシー!!!!
私は男の目をじっと睨み、
『へっへ〜!まさかこんな簡単にMERの実験体のVを捕らえられるとはな〜!!!この仕事の報酬が1000万だから〜…
雇われの身?
どこかの国の雇兵?
なわけないですよね…
「おい、
すると、倉庫らしき建物の一つの扉から今度はロン毛姿の中年男性が入ってくる。
「おお!!!奏人!!!起きたぜぇ〜!!こいつが例の、心を読めるって少女か?」
そこまで知られているとは…
MER関係者から雇われたことは確定で良さそうですね…
「ああ。そうらしいな。俺らとは大違いだ。」
テレパシー!!!!
こいつこそは私がここに連れてこられた目的を語ってくれると信じて…!!!
『………お前?聞こえてだろ?』
「ん!!!!!」
「ん?どうしたんだ?」
ロン毛の中年男性は、私をじっと光の無い曇った目で見つめた後、「どうやらこいつは本物で良さそうだ」と言った。
「へ〜!一瞬でわかるなんてやるじゃないか!!!」
「お前みたいなバカとは違うからな。厳柳。訳もわからず死ぬのは可哀想だ。せめての報いとして今がどういう状況か説明してやれ。」
「え?奏人。お前、そんな慈悲深い奴だったか?」
「良いからやれ。」
「………仕方ねぇなぁ!!!!」
その男は、地面に寝っ転がり、紐が解けない私の目を睨む様に見て、まるで獲物を捕まえられて、満足した獅子の様に笑うと、私の元へと歩き寄り、私の目の前にしゃがみ込んだ。
「俺の名前は
「ん!!ん…ぷはッ!!!!!!!わ、私はこれからどうなるんですか!?」
私はようやく口についていたガムテームを剥がすと、必死になって、厳柳に言った。
「えっとな…これからMERの連中がここに来て、お前の身柄を引き渡す。まあ、そっから先は俺らは知らねぇし、お前の方がよく知ってんじゃねぇの?」
その言葉を聞いて、一気に昔の記憶が蘇る。
呼吸もまともにできない液体で満たされた中で、お腹に穴を開けて、そこに幾つものチューブをねじ込まれ、幾つもの電気を化学物質を流し込まれる。
何もできない人間は必要とされず、頭の足りない奴は害虫を駆除するように殺処分される。
手を雑にネジで固定され「痛い」なんて言葉は無視され、ひたすら電気を流されたり、心臓を弄り回されたり。
食べたら嘔吐するような謎の気味の悪い薬を飲まされる日々。
あそこに何年間幽閉されたことか。
「い、嫌だ!!!」
体が震え上がる。
拒絶反応。これが現実じゃないことを祈るばかり。
地獄の日々に逆戻りなんて嫌だ。
心臓に針を刺されたように痛み、緊張で心臓が止まりそうだ。
私は…私は…!!!!
「お、すげー、めっちゃ震えてる。」
「……ケテ…」
私は…
「ん?何だって?」
「助けて!!!!!!」
すると、倉庫の天井が崩壊する
「ユミーさん!!!!!!!!!」
天井を突き破り降ってきたのは、ユミーさんだった。
月光が暗闇の倉庫の中を照らす。
「よく言った。偉いぞ。」
私の頭に優しい感触が伝わる。
「遅いですよ…!」
目尻に涙を溜めて言った本音。
「こっからは俺に任せろ!!」
月を背にし、男たちを背にし、私だけを見る。
「お、お前は!!!!」
後ろにいた厳柳がひどく、震え上がる。
そして、厳柳の見たものを、奏人が同じように見ると、目の前に信じられないこの世に無い物でも見たかのように、目をかっと開き、
「あ、青の騎士…」と呟く。
「俺の名前はユミー。Vを泣かせるなんて…」
ユミーさんは私から視線を外すと、正面を振り向く。
「生きて帰れると思うなよ?」
「く、クソ!!!!!!!」
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