第6話 エンジニアの熊田芽依

西区総合物流センター、データベース

「熊田芽依…熊田芽依…」

俺は西区総合物流センターのデータベースの中を漁っていた。

データの内容は、今までに送った発送品の宛名先と住所。

どこかに熊田芽依の名前があるはずなんだけど…

「あ!あった!!」



「ユミーさん!!今度の任務ですけど…」

「はいはい…今度もまた、どっかの研究機関でもハッキングすればいいんでしょ?」

朝の学校の登校中。俺は、ショートヘアーをなびかしながら歩くVの話を横流しに聞き、考え事をしていた。

熊田芽依。

山鹿浩市ヤマガコウイチのあのパワードスーツを改良した、熊田芽依。

一体、誰なんだと調べてみたら、まさか俺の通っている高校…起眞市立高等学校の生徒だったとはな…

案外、近い所に天才は居るもんだな。

というか、西区総合物流センターにはなんか、えげつない化け物の巫女がいるとか囁かれてたけど…

まさか、MER産の薬品の被験体のやつでも居るのか?

「MERの被験体…ですか?」

「ああ。そう…って、え!?」

「その…山鹿浩市って誰か教えてくれますか?」

そういえば…こいつ…読心術あるんだった…

「え、えっとな…」

やばい…どうしよう…今はもう無き人なんて言えない…って、あ

「え?まさか…殺したんですか?」

俺は少し、声のトーンを下げたVの声に、静かに頷く。

「なんで…」

「ごめん…仕事でさ…Dって奴に頼まれちゃったから…」

Vの顔を見ると、目から雫が溢れ落ちた。

「もう…そういうのはしないって約束だったじゃないですか…」

「ごめん…依頼…だったからさ」

「私…もうユミーさんの手が汚れるのは見たくないって言ったじゃないですか…」

「じゃあ!!これからはなるべくそういう仕事は断る様にしておくよ!!だから…」

「前だってそう言ってたじゃないですか!!!」

涙を溢しながら、Vは俺にまっすぐな目で見つめる。

この顔を見ていると、どうも心臓を思いっきり握られているように苦しくなる。

この顔を見たくなかったから、暗殺業から一時的に降りていたことを思いださされた。

「もう……あんな貴方の顔を見たくはないんです!!!」

俺は、Vに顔向け出来なくなりそうだ…

「だから…辞めて…お願いだから…」

笑えない。

だから、笑わないで俺は、Vを抱きしめた。

「わかったよ…約束する。」

俺の腕の中で、Vはまだ涙をこぼしていた。

人を殺すなんていう…偽善者の行為なんて…俺には出来るかな?

まあ、やるしかないのか…




「それで?山鹿浩市って結局なんなんですか?」

いつの間にか泣き止んでいたVは、先ほどのテンションで俺に話しかける。

気持ちの切り替え早いな…

「その前に戦った、山鹿って奴が着ていた装備が、起眞高の生徒が改造したものらしく、俺もその改造した生徒に会ってみようと…」

「えっと…それはつまり…」

「まあ、要するに、山鹿ってやつのエンジニアに会いたいんだ。名前が、熊田芽依って言うんだけどさ、なんか知ってる?」

「うーん…あ」

Vはその場で考え込むと、数秒たってから何かを思い出したようだった。

「そういえば、部活の後輩が言ってたんですけど、」

部活?Vは確か美術部だっけか?

「その後輩が言うには、クラスの中に、発明家がいるとか言ってましたね。」

「え?発明家?モロそれじゃん」

「そうですね。」

「その子のクラスって何処?」

「えーっと…確か1-Cだったような気がします…行ってみるんですか?」

「そうだな。昼休みにでも尋ねてみるよ。」




昼休み

「ここだよな…1-C組。」

俺は昼休み、トントンと教室の扉を叩くと、すぐに扉が開いた。

扉が開くと、目の前に、片目を隠した髪型の少年が立っていた。

なぜか既視感のある少年だな…

「あ…え、えっと…」

「え?ああ!あのーこの教室に熊田芽依って人いますか?少し話がしたいんですけど…」

「え?熊田?だ、誰だろ…」

と、俺が片目の隠れた髪型の少年と話していると、後ろから「霧矢君〜早くパレット片付けに行かないと、昼休み終わっちゃうよ〜って…」と、黒髪の少女がひょっこりと出た。

「いや、ちょっとこの人が熊田って人探してるみたいでさ…」

「え?ってか、Vさんの彼氏さんじゃん!」

俺はなんの躊躇いもなく誤った事実を話す黒髪の少女に思わず、「え?」と声が漏れてしまった。

てかあいつ、他のところでもVとか名乗ってんのか…せめて偽名くらい使わないのか?

「ああ…この人、森崎喫茶に来てた人…だっけ?」

「え?あなた方は誰ですか?」

「そう言えば、自己紹介まだでしたね!私は小林奏音と言います!えーっと森崎喫茶の定員その1です!!よろしくお願いします!」

次に、流れに沿ってなのか、片目の隠れた厨二病っぽいと言えばぽい、少年が自己紹介を始める。

「えっと…僕は森崎喫茶の店員の最上霧矢…です。えっと…美術部です。」

多分、これ、俺も自己紹介しなきゃいけないパターンなんだろうな…

「えっと…俺は、2年部のユミー。彼女は居ません。よろしく」

「よろしくお願いします!ユミー先輩!」

奏音が元気よく返事をすると、頭に「?」を浮かべて、俺に聞く。

「そう言えば、ユミー先輩って何しに来たんですか?」

「え?ああ。俺、熊田芽依って人を探しに来たんだけど…今っている?」

「え?芽依ちゃんですか?居ますよ!呼んできましょうか?」

「え、居るの?じゃあ、呼んできてくれる?」

「わかりました!!」

すると、奏音は教室の奥の方に行って、「芽依ちゃーん!」と呼びに行く。

「すいません。少し人脈があまり無くて。」

「なるほどな。ドンマイ。」

しばらくすると、奥から140センチ程だろうか、胸あたりの身長の茶色の子供が出て来た。

「この人が、呼んだんだよ!」

「あ、どうも。」

熊田芽依という人は、俺のことを顔を上げて、ジロリと舐め回すように視線を送る。

「君!面白そうだね!!」

え?

物凄い声量でしゃべった芽依という女性…いや、女の子に近いな…

制服はダボダボで、いかにもやんちゃを象徴するかのように落ち着きのなさそうな、雰囲気。

「え、えっと…貴方が熊田芽依?」

「うん、そうだよ!!!もしかしてお友達になりたいのか…!?それならこのよく分からない綺麗な石をあげよう!!!」

芽依は、ポケットの中から、白い部分が多い、綺麗な庭に撒かれていそうな石を一つ手のひらに乗せていた。

「え?あ、ありがと…」

「それで!!今日は私に何の様!?」

「え、えっとな…芽依が発明家っていう噂を聞いてどんな人かな〜って思ってきてみたんだけど…」

「なるほど!!芽依ちゃんわかったゾ!!エムに用があってきたことを!ちょっと待ってて!」

「エム?誰だそれ?」

すると、奏音が、微笑みながら、「みてれば分かりますよ」と言った。

「はあ…」

しばらくすると、両手に眼鏡を握った芽依がこちらへと駆け寄って来る。

まるで小動物の様に駆け寄ってくる芽依は、何か、自身満々の顔をしていた。

そして、「じゃじゃーん!めがね〜」と、秘密道具でも出しそうな勢いで、至極普通に見えるメガネを差し出してきた。

「こ、これは?」

「普通のめがね!じゃ!掛けてみるね!」

芽依はその丸眼鏡をかけた。

その丸眼鏡は、まるで博士の様が掛けている様な眼鏡に見える。

「うぁああ!!!!!!…っと…」

芽依は眼鏡をかけた瞬間、いきなり、ちょっとした悲鳴を上げて、若干の不安感を煽ると、少し叫んだ後に、いきなり静かになった。

「それで?私に何の様かね?」

俺が油断していると、どこからともなく博士と言わんばかりの、そんな口調の声がその場に響いた。

「え?」

「私だよ。熊田芽依。」

「え?芽依?」

「やっほーエムちゃん!久しぶりだね!」

「ああ。君は奏音か。久しぶりだな。最近は芽依が眼鏡をかけてなかったわけだし、あんまり会う機会がなかったからね。」

「え、えっと…」

先ほどまでそれほど、知能がなさそうだった方のうけた声が今になって一気に力というか、オーラの入った声になる。

「実は、私。熊田芽依は二重人格でね。」

「に、二重人格?」

「ああ。それで、人格の入れ替えが今は眼鏡をかけているかかけていないかで入れ替えられるんだ。」

「そ、それってつまり…」

「まあ、要するに、眼鏡をかけているかでスイッチが入ったり入らなかったりするんだ。眼鏡をかけていない状態が、熊田芽依。眼鏡をかけている、今の状態が、熊田エム。私は自分のことをエムと呼んでいる。これからよろしく。」

「あ、ああ…よろしく、エム…」

「で?今日は何の用事かな?前に山鹿って奴が私を尋ねてきたけど…お知り合いか?」

「い、いや…まあ、そんなところなんだが…その…少し話がしたくてな。」

「話?それなら今日の放課後に、科学室にきてくれないか?私はいつも放課後は科学部にいるんだ。」

「は、はぁ…わ、わかった…」

何となく、放課後の予定が決まると、その後、エムは「じゃ」と言って教室の中に入って行った。

「とまあ、こんな風に彼女は多重人格者で、エムちゃんは発明とかに長けているんです!」

「なるほど…そういうことか…」

それじゃあ、放課後になったら科学部に行ってみるとしよう。

「それじゃあ、ありがとう奏音。ちなみに言っておくけど、俺Vの彼氏じゃないからな?」

「ええー!?Vさんユミーさんの話しかしない癖に!?」

「あー多分そう!じゃあな!!!」




放課後…化学室

「それで?君は何がお望みなんだい?」

大きな1つ6人は使えそうな机。

壁際に並べられた幾つもの薬品の入った試験管。

そして、教師が普通たつ黒板の位置の前で、薬の調合なのか、試験管の中に入っている液体をまた別の試験管の中に移し変えるエム。

「そうだな…今って足を早くする薬とか、靴とかってある?」

「あるよ。欲しいのかい?」

「ああ。欲しい。」

「1000円で譲るよ。」

「1000円!?いいのか!?」

「私は証明できたらいいんだ。この様な機会が作れることを証明出来たらいい。」

そういうと、エムは、化学室の隅に置いてあった、というよりも、どかしてあった、一つのブーツを指さした。

「あれか。」

俺は、財布から千冊を机の上に置いて、ブーツを取る。

「それ、履いた瞬間に普通の5倍は足早くなるよう設定してあるから。気をつけたまえ。」

俺はその言葉を聞くと、「ありがと」と言葉を残して、化学室を後にした。




「MER…ってところかな…」







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