第5話 ミッションⅡ

西区アパレルマンションエアペント。


男は家の扉から外へと足を踏み出すと、右手に握っていた鍵で自宅に鍵を掛ける。


スーツ姿で、左手には仕事用なのか、カバンを1つだけ片手に握りしめている。


男の名前は山鹿浩市ヤマガ コウイチ


51歳、男性。


最近の就職先は、西区にある西区総合物流センター。


東京ドーム11個分の広さを誇り、西区の10分の1を占めている。超大型の物流センター。


西区の倉庫の愛称で親しまれている。この物流センターで、山鹿は働いているらしく、今はその物流センターに向かう途中だとか。


俺は、その山鹿の後ろに着き山鹿を追う。


特に今の所は問題はないが…


すると突然、山鹿はビルとビルの間にこっそりとある、路地裏のような場所に曲

がる。


路地裏の出入り口の前には、なぜか、左手用の軍手があり、軍手の手の甲には、

バツ印が刻まれている。


ここが集合場所…なのか?


しばらくすると、路地裏の中から、コンビニ帰りの様な、ビニール袋を右手に握

った山鹿が出てくる。


「もしかしたら、あるかもしれないな。」


水の湿ったコンクリートの匂いが充満し、暗く広い、横に100mほどベルトコンベ

アが流れている。


部屋の中にはいくつかのコンクリの柱があり、重たい天井を支えるようにして立っていた。


それはまるでどこかのベルトコンベアの工場のようにレーンが右から左へ流れて

いく。白くそまった段ボールの荷物を運んで。


「ついてきたんだろ?ストーカー」


山鹿は俺の存在に気付いていたのか、スーツのポケットからタバコを出すと、火

をつけて、煙を一気に吸い込む。


「気付いてたのか?」


俺は、広いコンクリの部屋に続く扉を開け、山鹿のいる空間に踏み込んだ。


「家を出た時からね。バレバレだったよ。」


「まじか。」


俺は、腕時計からサイレンサー付きのグロック17を出す。


住宅街でも使用できるように、ある程度は改造してある特別性。


「へぇ。日本でも銃持ってるんだ。まあ、俺も同じか。」


そういうと山鹿は、左手に持っていたバックを開け、一丁の銃身の長い拳銃を出し

た。


「ケルミットP50。これ良いだろ?サブマシンガンのくせして50発もぶっ放せ

る。再装填リロードするのも、銃身の上の部分をパカっと外してマガジンを

入れ直す。ロマンがある。」


「それに比べて俺は超有名な拳銃か。拳銃でも短機関銃に勝てること。証明して

やるさ。」


俺はグロックにマガジンを挿入し、コッキングする。


片手で、ハーフコッキングをし、弾丸があるのか確認した。


「ジョン・ウィック見てぇだな。」

「ま、意識してるからな。」


山鹿はもう一度タバコを一気に吸い、煙を取り込む。


ジリジリとした緊張の匂いが漂う。


山鹿は煙を吐き出し、タバコを口元から外し、その場に放り投げると、持ってい

たP50を俺向かって向ける。


「初め。」


ババババババババ!!!!!!!!!!!!!


銃から火が噴かれると、一気に頭周りをごっそりと銃弾で撃たれる。


俺は咄嗟にしゃがんでいなかったら死んでいたかもしれない。


バンバン!!俺はグロックをしゃがんだまま山鹿の頭あたりに撃ち込む。



山鹿は俺の銃弾を首を少し曲げるだけで回避した。


「クソ!!」


「慌てんなよー」


俺はすぐに後ろに聳え立っていたコンクリの柱に隠れる。


大体厚さは90センチほどはあるだろうか。


P50くらいの弾丸なら受け止めてくれるはずだ。


俺はコンクリを盾にして、コンクリの向こう側に銃弾を撃つと、そこに、山鹿の

姿はなかった。


「は!?ど、どこに…」


「後ろだよ。」


次の瞬間、頭に強い衝撃が鳴り響き、4mほど吹っ飛ばされた。


「流石にこれでおしまいじゃ、可哀想だからな」


俺を見下す山鹿は、片方の手をポケットに入れ、P50を手ごとぶら下げている。


俺は鼻から出た鼻血を人差し指で拭き取ると、グロックを今度は山鹿の腹あたり

に撃ち込んだ。


キン!!!


鉄に弾かれたような音。


まずい!!!!


俺は咄嗟に横方向に転がり込むと、先ほどまでいた場所に銃弾が埋め込まれてい

た。


あとコンマ1秒でも遅かったら1発は確実に入っていた。


山鹿は、スーツのしたの鉄板を俺に見せると罠にハマった兎を見て喜ぶかのよう

な笑顔で、俺を見た。


「すごいだろ?ある研究所の代物なんだ。なんつったか忘れたけど、普通の鉄の

100倍の硬さはあるんだってよ。」


俺はすぐにコンクリの壁の影に身を潜める。


コツンコツンとなる靴の音に集中して、俺はグロックを握る。


「やるじゃねえか!!」


緊張したこの張り詰めた感じ。


火薬の蔓延する香り。


右手に握る重火器のゴツい感触。


全てが揃い、俺の感情は一気に昂る。


俺は一気に、コンクリの柱から出ると、山鹿に向かって、今残っている銃の全弾

を吐き出す。


「全弾発射!!!」


バババババババ!!!!!!!


「ぐは!!!や、やるじゃねえか。その根性!!」


血を吐いた山鹿は、自身のP50を前方へ構え、残る弾丸を全て吐き出すように、弾

丸の、地獄の雨を降らせる。


俺は全速力で走り、途中でコンクリの柱を縦にしつつ、一旦山鹿から距離をと

る。


「特別性、バリスティックシールド、展開!!!!」


俺は自分の腕時計から全身を隠す大きさの鉄の盾を実体化させる。


「どこに隠してたんだ?そんなもの!!!」


約20キロに及ぶ重さのバリスティックシールドを持ち、俺は直線で山鹿に向かっ

て走る。


「そんじゃ、こっちも全弾射撃!!!!」


山鹿は全ての弾丸を撃ち尽くす勢いでP50の引き金を引いた。


「止まんねぇ!!!!!!」


俺は20キロの重さを、そのままの勢いで、山鹿にぶつけようとするが、山鹿はギ

リギリの所で、俺のバリスティックシールドの特攻をかわした。


山鹿はP50の銃身を上下で二つに分け、銃の空のマガジンを吐き出させると、再

び、50発弾丸の入っているマガジンをP50の中に入れる。


「お前がそんな盾使うんいうなら俺も、これを使わせてもらうぜ!」


銃を一瞬、空中に放り投げると、山鹿は一瞬でポケットから黒と青い光のライン

で構築されている、手袋を左手に身につける。


サテングローブの様なその手袋は、サイバーパンクの作品を彷彿とさせるような

デザインが施されており、ほぼ鉄で出来ていた。


「パワードアーム・EXエクストラ鉄剣TEKKEN


俺は勢いを付けたバリスティックシールドを立て直し、もう一度、直線で突進す

る。


「なんだぁ!?その手袋?それで変わったつもりかっての!!!!」


俺は手袋のことなど気にせず、今までの全力で、一気に突っ込む。


まるで興奮したイノシシの様に、もう前以外に進める方向がないほどまで勢いを

付けた。


だが、山鹿は避けるどころか、逃げようともせず、ただ、真正面で、無敗の魔王の

如く佇む。


俺は若干の違和感を覚えながらも、全力で20キロの盾を持ちながら突っ込む。

「オラァ!!!!!」


と、俺が飛び出した瞬間、バゴン!!!!という大きな響と共に俺の持っていた

20キロ超のバリスティックシールドが、正面から弾き飛ばされる。


そして、バリスティックシールドに掛かった衝撃は俺をも巻き込んで、10mほど

吹き飛んだ後、バリスティックシールドだけが、コンクリートの上を滑っていっ

た。


サイバーパンクの装備をつけているような山鹿の左手の手袋は、あらゆる所から

蒸気を吐き出し、走った後の人間が吐き出す二酸化炭素の様に、周りの空気に馴

染んだ。


「最近、この物流センターでパワードスーツ的なのが流行ってきてな。それをち

ょっと前にある人物に改造してもらって、戦闘用にした。ちなみに、最大出力は

20t。俺にちょっとでも近づいたらエグいことになるぜ?」


俺は飛ばされたバリスティックシールドを見ると、殴られたであろう場所だけが

極端に隕石でも当たったかのように凹んでいる。


ババババン!!!!!!


片手でP50を扱う山鹿から隠れるように再び、コンクリートの柱の裏に隠れる。


「無駄だ…っぜ!!!!」


その言葉とともに、コンクリートの柱が一気に崩れる。


俺を巻き込んで、コンクリが弾き飛んだ。


弾き飛んだコンクリの向こうには、左手を振りかざしていた山鹿の姿が目に映っ

た。


俺はすかさず体制を、立て直して、コンクリがまだ空中に散らばっている中、俺は

グレックの弾丸を1発撃つ。


グレックの弾丸は、空中に舞ったままのコンクリの断片を砕きながら、突き進

み、パワードアームの一部に当たった。


だが、パシン!!と火花を散らせると、弾丸をそのまま受け止め、まるで壁にぶ

ち当たったかの様に、一つの弾丸だったものがコインの様に平べったく潰され

る。


「どんだけ硬てぇんだ!!」


「二撃目!!!!」


そのまま、蒸気を出したパワードアームは拳を直線に振り出し、空中に浮いてい

たコンクリの断片を俺に向かって空中で殴り、直線に飛ばす。


「いだだ!!!!」


運よく、断片はとても小さかったものだけで、砂だけが勢いよくぶつかっただけ

だった。


「くそ!!!!!」


俺は射角から出るために勢いよく横ステップをしたことで、砂を取り払い、グロ

ックを向け、引き金を引いた。


が、弾丸は一向に発射されない。


「は!?」


俺はコンクリの柱を壁にグロックを勢いよく振ると、銃口からたっぷりの砂が出

てきた。


どうやら砂が銃の中に入ったらしい。


「あいつこれを狙って…!!!」


俺はグロックをデータ化し、腕時計の中にデータとして保存すると、一本のナイ

フを取り出す。


「これしかねぇのかよ…」


すると、またもや、山鹿の左腕によってコンクリの柱がぶっ飛ばされる。


「エグすぎぃ!!!はっは〜やっぱこのパワードスーツの爽快感は半端ねぇ

な!!!」

「こうなったら…あれしかねぇな…」


俺は柱のコンクリの断片を手で払うと、コンクリと一緒に少し離れたところに飛

ばされたナイフを握ると、立ち上がる。


「何かあるのか?他にヨォ〜」


「まあな。一つだけ切り札がまだ残ってるんだ。」


「へー、じゃあ俺も切り札使おうかなぁ!まだ残ってるんだ。特秘薬が!!」


山鹿は遠くの方に置いてあった路地裏で拾ったであろうビニール袋を持つと、そ

の中にあった一つの疲労回復薬の様な液体の入った瓶を一杯だけ、飲む。


「プハー!!!たまんねぇ!!!」


薬品の混じった飲料水の様な匂いがあたりに漂う頃に、山鹿は瓶を投げ捨てる。


「それはなんだ?」


俺が謎の液体について質問をすると、山鹿は口元に残っていた液体を腕で拭き取

って言った。


「こりゃあ、能力を得られるっていう噂の薬品だよ。最近色んな所で流行ってて

な。超能力者になれるんだぜ?」


「超能力者?」

「ああ。ちなみに俺の仕事は、この薬品を西区総合物流センターに流れてくる荷

物に紛れて目的地まで運ばせる…いわゆる運び屋の様なもんだ。」


「それで、ここに?」


「そういうことだ。で、今飲んだ薬は、左手から電撃を放つ能力。これから20分

間は、この左腕からも遠距離攻撃が飛ぶことを意識しておいた方がいいぜ。」


そういうと、山鹿は左腕を振りかぶる。


「まずい!!!」


と、俺が思った時には、山鹿の左腕から強力な電撃が放たれ、身体中に痺れ渡った。


「ぐああああああああ!!!!!!」


すぐに電撃は止み、俺は右手のナイフを強く握りしめる。


軸をしっかりと持ち、フラフラの足に力を入れて、強制的に体を安定させる。


深呼吸をして心臓の鼓動を落ち着かせる。


そして、俺は瞑ったままの目を開き、一言。

ある一言を放った。




「DEBT MODO!!!!!」



俺の目が狼の様に赤く光ると、俺はその場のコンクリートを踏みしめて、勢いよ

く前に一歩出る。


大体18m。一歩、18m。山鹿に近づくには十分な距離だ。


山鹿は何かに気づいたのか、慌ててP50の引き金を引き、俺に銃弾を当てるが、俺

はナイフで若干の弾道を変えつつ、ナイフを突き立てて山鹿に突進する。


風の様になって、空気を切り裂き、俺は山鹿に向かって右腕を掲げる。


「はや…」


俺は掲げた右腕を振り下ろし突き立てていたナイフを山鹿の腹につき刺しながら

拳の衝撃も交えると、山鹿は18mほど、吹き飛んだ。


それは何かに吸われる様にして。

山鹿はコンクリートの柱に勢いよくぶつかると、口から血を吐いた。

「ぐは!!!!お、お前…その力は…!!!」


「この力?これはデットモードだけど…何か?」


「クソォ!!!まだだ!!!!」


と、山鹿は左手を振りあげ、俺に向かって殴ろうとする。


だが俺は、ナイフを強く握ると、一瞬で山鹿の左手を切り落とす。


「ぐああああああ!!!!!」


目にも止まらぬ速さで、次に、P50を持っている方の手首をナイフで切り弾き飛ば

すと、すぐに山鹿は悲鳴をあげた。


山鹿は右腕を押さえる様にして、地面に右腕をつけるが、左腕の付け根だった部

分から大量の血が流れ出す。


「はぁ…はぁ…俺の…負け…か?」


「ああ。もう時期、お前は死ぬだろうな。」


「くそ!!!!!」


最後の山鹿の姿は、どちらかというと、死ぬことよりも負けたことに悔しさを覚

えているようだった。


「俺はぁ…退屈な日々が続いてた…。でもある時、ベリアルって組織から…俺あ

てに一通の手紙が届いた…そこに書かれてた内容は…MREという組織の薬を日本

中に流して、売ること…運び屋の仕事だった…」


「…それ、言っていいことなのか?」

「どうせ死ぬんだ…俺に買った奴にはハッピーエンドをお見舞いしてやりてぇ…俺は楽しむために毎日を生きていた…だからスリルが欲しくてベリアルに入った…それだけだ…で、もう50年も生きてきたからなぁ!!!悔いはねぇ!!!い

でで…」


「それじゃあ、一つ質問いいか?」


「なんだ?いってみろ…」


「その、パワードアームって誰が改造したんだ?」


「このパワードアームは…ある学生に改造を頼んだんだ…名前は…熊田芽依…おめえならすぐ見つけられるよ…」

「……情報提供感謝する。」


「強く生き残れ!!!勝者さんよ!!!!お前との勝負がしたくて罠に嵌めたけ

ど…お前が人間じゃないなんて知らなかったぜ…お前…名前は?」


「…電脳特殊捜査隊、第六課所属。ユミーだ。」


「そうか…ユミー。頑張れよ!!!!」



俺はその言葉を聞いた後、手榴弾を転がしてその場を去った。







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