第2話 一人の騎士
「ふぅ…」
鐘の音色が校内に響き渡ると、俺は筆箱の中に、銀色のシャープペンシルを仕舞うと、すぐに筆箱のチャックを閉じた。
「よっしゃ〜、終わった〜」
俺は小さな独り言をその場に呟くと、呟いた言葉だけをその場に置いて、机の横にひっ掛けておいたカバンを持って教室の扉を開けた。
「あ!待ってくださいユミーさん!!」
すると、背後から女の声が聞こえた。
「ん?」
俺は踵を返すとそこには、ショートカットのボブ姿で、制服がよく似合う、黒髪の少女が一人いた。
黒髪の少女は、カバンを持っていて俺と同じように今まさに、帰るつもりのようだ。
「ほんと、私のことを置いてかないでください!!」
「ああ…わりぃわりぃ」
俺は適当にその女をあしらうと、再び歩き始める。
「ちょっと!本当に悪いって思ってるんですか!?」
別に俺が悪いわけではない様な…
「って!今、俺が別に悪いわけではないような…って言いましたね!?」
「うげ!?」
忘れていた、こいつの能力のことを!!!
俺は慌てて、汗を手の甲で拭き取ると、「え!?あぁ…独り言?」と俺は後退りする。
よし!!今だ!!!!!!
俺はタイミングを見計らい、足に力を入れ、ウサインボルト並みの前傾姿勢になり、駅のホームから飛び出す新幹線のように、走り出そうとした。
しかし、コイツからは逃げられなかった。
「ぶへ!!!!」
俺は走り出す前に、この制服が微妙に見合わなそうなコイツに殴られる。
的確に鳩尾を狙われたようだ。
「私から逃げられるとでも?」
「す、すいません!Vさん…」
この暴力女、それこそが、幼馴染(?)の「V」という女だ。
「あ!!今暴力女って呟きましたよね!!!心の中で!!!」
ちなみに、コイツは読心術という卑怯な特殊能力を持っている。
「今!!卑怯って言いましたね!?」
「い、言ってない…!!言ってないから…!!!」
Vは腹を抱え、悶える俺の横腹に蹴りを入れた。
「し、死ぬて!!!まじで!!!」
「あなたはこれ位では死にません!!!能力者なんですから!!!!」
「カンケーねぇだろ!!!!ぶふぁ!!!!」
◇
俺は頬にガーゼを貼り付け、Vと並び歩く。
なんで頬なんだ…?
「まじでやり過ぎだろ…」
「ユミーさんにはこれくらいで十分です!」
頭から煙をぷんぷんと出しながら歩くV。
流石にやりすぎたか…?
「本当に!!もう知らないですよ!!!」
独り言でも俺のことを相当憎んでいるのか、とても怒っているように見える。
ここまでくると、この俺でも女の子を怒らせるのは、さすがに引けてきた。
「あのー…Vさん今って能力使用してますか?」
俺が平謝りしようと、Vに聞いてみるが、Vは相当怒っているようで、俺の顔と反対の方向を向いて、「今は使用してませんよ!!あなたの心の声も聞きたくありません!」と答える。
俺は苦笑いする。どうやら今回は本気らしい。
まずい、ここのままじゃあ物語が進まないな…
とりあえず、俺は財布の中身を見た…
幸い、財布の中には、1000円札が3枚ある。
「仕方ないな…」
俺はそう呟くと、Vの方をぽんぽんと叩く。
「なんですか…?」
「あの…そのですね…少しお茶でもしませんか?」
「それで許してもらおうという魂胆ですか?」
「そ、その通りです!!!いくらでも、奢るので!!!許してください!!!」
Vは片目で、俺のことを睨むと、少し息を吐いて「はぁ…わかりました…じゃあ、今人気な場所があるんでそこでいいですか?」
「仰せのままに」
俺は膝を突き、王に忠誠を誓うよう騎士のようになった。
◇
俺とVは森崎喫茶店という喫茶店の窓側席に座り、そこでひと時を過ごすことになった。
「とりあえず何頼む?」
「私は…とりあえずこのクリームソーダが気になりますね!!!」
目を輝かせて頼むV。
「りょーかい。じゃあ、俺はオレンジジュースにしようかな」
とりあえずメニューを決めると、すぐに定員を呼ぶ。
店内は色々な人に溢れかえっており、一眼で人気店だとわかった。
意外と女子っぽいところもあるんだな…Vも…
そりゃあそうか最近のJKだもんな。
「なんか考えてました?」
「い、いや!!なんでもないです!!」
俺が少し慌ててると、手を振っていると、後ろから緑色の髪をした派手な店員が来た。
「ご注文をどうぞ〜」
「え、え、えっと!!クリームソーダとオレンジジュースをお願いします。」
「はぁ〜い」
そういうと、店員は厨房の方へ向かって行った。
「ふぅ…」と俺は腹の底から息を吐き出すと、Vが俺のことをじっと見つめていることにようやく気づく。
「ど、どうしたんだ?」
「いや、なんでもないです。」
「お、おう…そうか」
Vは学校のカバンの中から一つのファイルを出す。
ファイルは、中身が見えないようになってて、重要そうなファイルを閉じ込めてありそうだ。
「この前の所…やっぱり白でした」
俺は届いたオレンジジュースを一口飲むと、「ま、そうだよな」と相槌を打つ。
「それで?次が本命な訳か。」
「はい。次が本命です。次に潜入してもらうのは、研究所MER。私たちの出身地ですね。」
「ま、そうだろうとは思ったけどよ。で?正しい位置はどこにあるのかわかるのか?」
「そんなもの貴方には必要ないと思いますが…」
俺はもう一口、オレンジジュースを啜って、「ま、念の為だよ」と言う。
「今も変わらず、シベリアのど真ん中です。研究所の位置はずっと変わってません。ですが、あの兵器とあの戦争のこともあってか、今は連合国から目を瞑られています。」
「……そうか」
「まあ、そんな連合国に頼らなくても、貴方なら個人で壊滅させれる力がある。まずはデータベースからお願いします。」
そういうと、Vは席を立った。
「この資料は渡しておくんで、あとはお願いしますね。クリームソーダ美味しかったです。ごちそうさまでした。」
その言葉を残して。
「ただいま〜」
俺が家に帰ると、リビングには「まつ」が居た。
まつは、ピンク色の髪を揺らしてテレビを見ている。
「お、まつ。帰ってたのか。」
俺がまつに喋りかけると、まつはこちらに気づいたのか、「あ!帰ってたんだ!おかえり!」と返した。
「今日も、あるからなー」
「えぇ〜、そうなの?せっかくテレビいい所だったのにー!」
俺はさっきまで見ていたまつのテレビがどんなものか気になり、俺はテレビの電源をつける。
すると、テレビの中に映り込んだのは、40か50ほどのおじさんが道路を駆け回る姿だった。
「こ、これってなんだ?」
「ん?これ?これ刑事ドラマ」
「あ、そなのか…」
俺は初めて見たまつの新しい一面に驚きながらもテレビを消す。
「さてと。任務が入ったってよ。」
「ゑ」
まつは、なぜか眉をひそめた。
「昨日もやったよね…?」
「まぁ…仕方ねぇよ。今が山場なんだから。」
まつはその場でため息をすると、「仕方ないな〜。ぱぱっと終わらせよ!」と言った。
「そうだな。」
「それじゃ、行こうか!」
「うん!」
俺は自分のスマホをポケットから開くと、自分のスマホの中に入っている一つのアプリを開く。
アプリを開くと、真っ白な画面が出てきた。
「soul connect」
俺とまつが一緒にその合言葉を口から発すると、俺らの体はピクセルの破片となってスマホの画面の中に吸い込まれて行った。
俺は閉じていた目を開けると、目の前にはインターネット上に溢れかえる、広告のタブで埋め尽くされた空が瞳の中に映し出される。
どうやら無事、成功したみたいだ。
まぁ…失敗したことなんてないけど。
俺は大の字になって、床に寝そべっていた所から起き上がると、インターネットの広告で埋め尽くされた空から目を逸らし、地平線の彼方を見る。
俺がいる場所は、あたりにビルや建物どころか、草木一本もない、いうまでもないような平地。
床は土などではなく、白いツルツルとした材質で作られている。
「あ!ユミー!居た居た!」
すると、遠くの方からまつの声が聞こえた。
俺はまつの声がした方へ向かう。
「やっほー。それじゃあ、さっさと任務終わらせますか!」
「そうだな。」
雲のように空に浮かぶ広告のタブ。
草木もなく、白い床一面で地平線の彼方まで造られたこの世界。
俺らがいる場所。それは、異次元でも、異世界でもない。
ここは、インターネットの世界。
なんというか、俺らはインターネットの世界に入ることのできる能力を持っている。
そして、俺らは、この能力を駆使しハッカーをしている。
「武器は大丈夫か?」
「もちろん!デザートイーグル起動!」
まつが手を開き、目の前に掲げるとその中に、青い拳銃の形をした光が形作られていく。
しばらくすると、殻を割るようにして、青い光が飛び散り、ピンク色で彩られた拳銃が現れる。
「じゃ、俺も。クリスアクター」
俺は右手を斜め下に広げると、俺の声に反応したシステムが、まつ同様に、サブマシンガンの形を作っていく。
そして、形が出来上がると同時に、緑色で彩られた銃が現れる。
「そんじゃ、行きますか!」
「うん!」
「「ミッション、スタート!!!」」
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