吹奏楽の星
そう言えばTSという設定がありましたね。
・・大丈夫、忘れてないから
* *
突然だけど、皆は前世の記憶に悩まされた事はないだろうか。
残念だけど俺にはそれがあった。
トラックにはねられたことも、階段から落ちたこともなく
ある日突然思い出した。前世らしき記憶。
でも記憶は断片しか覚えてない。
覚えていたのは、中高と吹奏楽部に所属していたこと。
その時の記憶がランダムに思い起こされる。
男子学生として吹奏楽部で6年間くすぶり続けたいた断片が。
今から語るのは、そんなモブ男の日常風景だ。
前世でも俺は、中高通して吹部のパーカッション担当だった。
別にパーカッションが嫌いじゃない。
日々のストレス発散にはもってこいの楽器だからだ。
でもさ。
たまに考える。
考えてしまう。
“壇上はキラキラしているよなーって、
女子達が並んだひな壇はそれはもう華やかで、眩しかった。
彼女たちが金管楽器を奏でている時、俺は
まるで用心棒だ。
・・・うん、かっこよく言っても変わらない。
そんな用心棒が、演奏中に気づいた。
舞台の上にキラキラ光が舞っていることに。
何眩しい!何だこの光は!
えっ、金管楽器が光ってる?!
ステージのライトを反射して、舞台に舞い散っていたんだ。
そんなキラキラを浴びた同級生や先輩他達もキラキラ輝いていた。
それを舞台袖から見ていたオレは、心底羨ましく思った。
いやそれを通り越して、ひょっとしたら殺意すら覚えたかもしれない。
それは次第に強烈な憧れとなって、俺の魂にこびりついた。
(オレもいつかあそこに登ってキラキラしたい!)
でもそんなことは土台無理。そうさ分かってる。
吹部の男子生徒に人権無し。
すまん、過言だ。
でも、そんな噂があったりなかったりする。
ことの真意はともかく、地味でモブ顔の俺は割と雑に扱われていた。
体のいい荷物運びだ。
くっそおー俺も2枚目だったら今頃トランペット吹いて輝いてたのに。
・・・そして、
入学式歓迎会の最中、オレは暗い学生だったなぁという事を思い出した。
いや、誰だよ俺って。じゃあ私は誰なんだよ。
混乱から立ち直ったとき、今の自分をまるで他人のように思い出した。
今年から県立高校に通ってる女子だ。
新入生歓迎会で部活紹介をなんとなく眺めてたら、ぴーんと来た吹部に入った。
なんで入ったんだよほんとに。
自分でもその時はおかしいと思った。
中学までずっと運動しかやってなく、楽器なんて縦笛しか触ったことない自分が吹奏楽部に入るなんて絶対ありえない。
ただ、どうしても入らないといけない気がしたとしか言えない。
吹部主催の新入生歓迎会のコンサートを見た時、これだって思った。
思ってしまったんだからしょうがない。
すぐ音楽室を尋ね、体験入部をすっ飛ばして即入部した。
「や、辞めたくなったら大丈夫だからね
と、部長のお言葉に、
「お願いします!何でもしますから入れてください!出来れば金管楽器を!あわよくばトランペットかトロンボーンをお願いします!」
「なんでそん何やりたいかなー経験者でもないんでしょ?」
それはそうだ
こちとら小学校からサッカー少女だ。
アニメを見ては
「ほら、これがマルセイユ・ルーレットだよ!すごいでしょ!」
なんて友達に見せびらかしては喜んでいた。うん、我ながら可愛いよね。
そんなどこにでいる普通のサッカー少女だった。
・・・コホン
「大丈夫、サッカーとフットサルの経験ならあります」
「あーうちの学校女子サッカーもフットサルも無いからね」
「そうなんですよ!何でないかなー」
「・・・本当にうちでいいの?」
「入れてくれないと、早朝練習に押しかけますよ!」
「それ怖いからやめて!」
「パー練にもこっそりいますよ?」
「だから怖いの駄目だって言ってるでしょ!」
こうして無事部長を陥落させて、オレは吹奏楽部に入ることに成功した。任務完了だ。
時々、もう部長やめたいという声が聞こえたけど、気の所為だろう
「・・・ホントやめたい」
気の所為だ・・うん。
※補足
吹部(吹奏楽部)
パー練(パート練習)
銅鑼(でっかくて物凄くうるさい鐘)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。