一目惚れ・・・まだ盗撮魔と呼ばれていない頃
終わった。
ミスはなかった。金はいけるはず。
「ねえ、時間まで客席に行こうよ」
「そうね」
自分達の演奏が済んで、みんなも心に余裕ができたようだし。
「よし、行こうか」
*
県大会だからか、観客席はまばらだった。多分来ているのは父兄や友だちとかだろう。
「みんな固まって座ってね!」
顧問の先生がそう言ったので、私達はひとかたまりで座れる席を探す。
「ええー最前列しかないじゃん」
「まあまあ、近くで見れると思って」
「とにかく早く座ろうよ」
審査結果発表まで時間が有る。私は今はゆっくり座りたかった。
*
「うーん、後ろ側は見えないね」
私達が確保できたのは前から3列目。ほぼ最前列。
手前の指揮者周辺の生徒くらいしか見えない。
普段客席側から見ることはない。
だから、たまに客席から見ると色んなことが見える。
いま舞台に上った生徒達は緊張しているのか、表情が無くなっていた。
(緊張は必要だけど、程々でなくちゃ)
見ると指揮を撮っている顧問の先生は表情も固く、何より怖そうだった。
(こっちもかなり緊張しているみたい)
そんな中。見つけた
(笑ってる?)
無表情な生徒たちの中、その女子生徒は艶やかに輝いていた。
(うわー薔薇の花みたいだ)
ポニーテールが多い中、ボブカットの彼女は目立った。
色白の肌。まるで口紅をしているように赤い唇。
意思の強そうな瞳が蠱惑的に輝いてる。
(ええー今演奏前だよね。何この余裕)
私は混乱した。
(そこ舞台のうえだよ!今コンクールの演奏中だよ)
そう叫びたかったけど、同時に止められないと思った。
だってその無垢な表情が誰かに似ていたんだ。
(そうだ、おやつを前にした妹に似ているんだ)
そんな子どもの笑顔
それを見ていたら、自分の頬が緩むのがわかった。
「何笑っているの?」
隣の子が肩をつついて小声で尋ねた。
私は無言で彼女の方を指差す。
「うわー綺麗な子ね」
綺麗?
たしかに綺麗な子だけど。私にはそれはおまけだった。
あんなに楽しそうに演奏してる。
私もあんなに楽しく演奏できただろうか
大好きな音楽を嫌いになるほど練習している毎日。
彼女を見ていると、初めて楽器を買ってもらったときを思い出した。
持っているだけで嬉しくて、いつもプープー吹いてた。
館内は撮影禁止。
思わず彼女の笑顔をとりたくてそれを破りたくなった。
*
(何やっているんだ、私は)
どうしても我慢できなくて、館内から外に出た瞬間を撮った。
彼女に気づかれないように、建物からうんと離れたところまで下がって。
「ふふふ」小さくだけどしっかり撮ることが出来た。
(何とかして近づけないかな)
「そうだ」
あの学校に中学のクラスメートがいたはず。
まだ残っていたアドレスを見つけ、私はほくそ笑む。繋がった。
「お友達になれるといいな」
(待っててよ♪)
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