一目惚れ・・・まだ盗撮魔と呼ばれていない頃

終わった。

ミスはなかった。金はいけるはず。


「ねえ、時間まで客席に行こうよ」


「そうね」


自分達の演奏が済んで、みんなも心に余裕ができたようだし。


「よし、行こうか」



県大会だからか、観客席はまばらだった。多分来ているのは父兄や友だちとかだろう。


「みんな固まって座ってね!」


顧問の先生がそう言ったので、私達はひとかたまりで座れる席を探す。


「ええー最前列しかないじゃん」


「まあまあ、近くで見れると思って」


「とにかく早く座ろうよ」


審査結果発表まで時間が有る。私は今はゆっくり座りたかった。


「うーん、後ろ側は見えないね」


私達が確保できたのは前から3列目。ほぼ最前列。

手前の指揮者周辺の生徒くらいしか見えない。


普段客席側から見ることはない。

だから、たまに客席から見ると色んなことが見える。

いま舞台に上った生徒達は緊張しているのか、表情が無くなっていた。


(緊張は必要だけど、程々でなくちゃ)


見ると指揮を撮っている顧問の先生は表情も固く、何より怖そうだった。


(こっちもかなり緊張しているみたい)


そんな中。見つけた


(笑ってる?)


無表情な生徒たちの中、その女子生徒は艶やかに輝いていた。


(うわー薔薇の花みたいだ)

ポニーテールが多い中、ボブカットの彼女は目立った。

色白の肌。まるで口紅をしているように赤い唇。

意思の強そうな瞳が蠱惑的に輝いてる。


(ええー今演奏前だよね。何この余裕)



私は混乱した。


(そこ舞台のうえだよ!今コンクールの演奏中だよ)


そう叫びたかったけど、同時に止められないと思った。

だってその無垢な表情が誰かに似ていたんだ。


(そうだ、おやつを前にした妹に似ているんだ)


そんな子どもの笑顔


それを見ていたら、自分の頬が緩むのがわかった。


「何笑っているの?」


隣の子が肩をつついて小声で尋ねた。


私は無言で彼女の方を指差す。


「うわー綺麗な子ね」


綺麗?

たしかに綺麗な子だけど。私にはそれはおまけだった。


あんなに楽しそうに演奏してる。

私もあんなに楽しく演奏できただろうか


大好きな音楽を嫌いになるほど練習している毎日。

彼女を見ていると、初めて楽器を買ってもらったときを思い出した。

持っているだけで嬉しくて、いつもプープー吹いてた。


館内は撮影禁止。

思わず彼女の笑顔をとりたくてそれを破りたくなった。



(何やっているんだ、私は)


どうしても我慢できなくて、館内から外に出た瞬間を撮った。

彼女に気づかれないように、建物からうんと離れたところまで下がって。


「ふふふ」小さくだけどしっかり撮ることが出来た。


(何とかして近づけないかな)


「そうだ」


あの学校に中学のクラスメートがいたはず。


まだ残っていたアドレスを見つけ、私はほくそ笑む。繋がった。


「お友達になれるといいな」


(待っててよ♪)

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