第6話 おっきくなっちゃった?

「ねぇ……後輩くん。(ピー)って、言ってみて?」


 さすがにそれは言えない。言っていいの?


「なんですか急に、そんなエッチなこと言いだして」


 水着姿で肌の露出も多いから、エッチな言葉がいつにも増してドキドキする。


「先輩はいつも、そんなエッチなことばかり考えてるんですか」


「いつもじゃないけど、ほら、未知への憧れっていうの? だってわたし処女だし」


「ぶふぉッ!」


「なに吹き出してるの、きったないな」


「せ、先輩が変なこと言うから」


「変なこと? あー、処女? はいはい、処女ですよー。乙女ですけど! それがなにか」


 どう反応していいかわらない僕に、


「え!? もしかして後輩くん経験あるの? 童貞どうてい顔してるのに経験しちゃってるの!?」


 童貞顔? してるか? してるのかも……。


「経験なんかしてません」


「そう……よかった」


「よかった?」


「なんでもない! じゃあ、童貞であってるじゃん。僕は童貞ですって言え」


 楽しそうに笑う。かわいいな、本当に。


「はい、僕は童貞です。これでいいですか」


「はーい! わたしは処女です。一緒だね♡ 童貞くん、こんごともよろしく」


 唐突とうとつに抱きつかれた。

 肌の露出ろしゅつの多い水着姿のおっぱいが、むにゅんと胸元に当たる。


「だ、ダメです。やめてください」


 先輩を離そうと、彼女の細い両肩を押す。どうしよう、明らかにおっきくなってるんだけど……。太ももで挟んで隠してるけど、すぐにおさまりそうにない。


「なんでー? うれしくないの~」


 唇とがらせないでください。その顔、実は好きなんです。ドキドキするんです。


「うれしすぎるので、ダメです」


 つい、股間を確認しまった。

 僕の顔の動きに先輩は小首を傾げた後、


「ふわっ!」


 変な声を上げる。


「も、もしかして……おっきく、なっちゃった……の?」


 何が大きくと主語を口にしなかっただけ、先輩も大人になったのかもしれない。もしくは空気が読めるようになったかだ。


 どうしよう? 僕は素直に頷いた。恥ずかしいけど、彼女にウソをつきたくなかった。


「お、男の子って、そんな簡単におっきくなる……の?」


 簡単じゃないですけど。水着姿の先輩と個室にふたりきり、さらに抱きつかれてお胸を押しつけてもらえるなんて、人生最大のエロイベントなんですけど。


「せ、先輩だから……です」


 どう答えるのか正解かわからなかったから、勝手に出てしまったそれを正解にするしかなかった。

 うっわ。先輩、とても恥ずかしそうな顔をしてる……と思ったら、すんごいニヤけた。むしろエロい顔になった。


「そっか……じゃあ、すっきりしたいよね?」


 うんうんと頷く先輩。


「すっきりって、エッチな言いかたしないでください」


「あれ~? 別にエッチな言いかたしてませんけどー、普通ですけどー」


 彼女は少し真面目な顔をして、


「男の子って、トイレでするんだよね? ひとりエッチ。トイレの場所わかるよね? 一番近いトイレ、わたししか使わないから、そこでどうぞ。わたしはここで待ってるから、ドアに耳あてて聞いたりしないから、すっきりしてきて」


 なに言ってんだ、この人。夏の暑さで脳みそウダってるのか?

 先輩は移動して机の引き出しを開け、なにかを手にする。そして僕のところに戻ってくると、


「はい、どうぞ♡」


 見慣れたボイスレコーダーを手渡した。僕のは自分の部屋にあるから、これは先輩の物だ。

 僕のと先輩のふたつのボイスレコーダーは同じもので、それらには、同じ音声が記録されているらしい。先輩がそう言っていた。

 だって音声を録音するの、先輩だけなんだもん。


「これ使って? わたしのエッチな声、たくさん入ってるから。それ聞きながら、トイレですっきりしてきてね♡」


 ここまでなのか? ここまで男心おとこごころがわからないのかこの人!


「わたしってほら、理解ある系女子でしょ? 大丈夫! わかってるから」


 いや、全然わかってない。理解ある系女子ってなんだよ、なんでそう思えるんだ。


「し、しません! 先輩の声でそんなことしませんからっ」


 声がどうこうじゃなく、この状況でするわけないでしょ! 他人の家だぞ!


「えー、なんで? わたし、そんな魅力ないかなー? 先輩の声はきれいですって、すてきですって言ってくれるじゃない」


 どう説明すればいいんだろう。どう説明したところで、彼女はわかってくれないかもしれないけど、


「あの……ですね。僕は好きな女の子を、先輩をそういうことに使いません。けがしたくないです。大切な人だから、大切に想っていたい……です」


 数秒の沈黙。見つめ合う僕たち。


「……あれ? これ、真面目なやつ?」


「そうです。真面目なやつです」


「謝ったほうが、いい……?」


「別にいいですけど。先輩、僕にそういうことされて、イヤじゃないんですか」


「そ、それは……正直に言ったほうがいい? 怒らない?」


 怒られるようなこと言うつもりなのか?


「内容によります」


「そっか、できれば怒らないでね。わたしは使ってもらえたほうが、うれしい……かな? 後輩くんの頭の中でどんなエッチなことされてるのか想像すると、恥ずかしくて、ニヤニヤがとまんないもん」


 そうか。恥ずかしくて、気持ちいいんだ。そういう人なんだ。

 だけど、


「僕の頭の中で、先輩はどんなエッチなこともされたことないです」


「えー……ないの~? 本当に?」


 しょんぼり顔しないでください。


「本当です。先輩が大切だから、しません」


「大切だから、オカズにしたいんじゃないの?」


 オカズ言うな!


「そんなことしたら先輩をよごしてしまうようで、できません」


よごして……?」


 先輩は小首を傾げたあと、ハッとした顔をして、


「えっと、それはそれで、恥ずかしいね。そっか、それはうれしい……かも」


 僕の気持ちを察してくれたようだった。


「かもじゃなくて、うれしいって思ってもらえるよう、これからも努力します」


「あっ、かもじゃない。うれしいよ、うれしい」


 本当か? そんな顔に見えないけど。


「僕は本音で話したので、先輩も本音でお願いします」


「う、うん……。実はわたし、後輩くんはわたしの声をひとりエッチに使ってくれてるって思ってた。っていうか、使って欲しいなって。録音するとき、きみが興奮してくれるように、わざとエッチな声出してた。ごめんなさい」


 そんなことしてたんですか。「演技うまいなー」くらいにしか思ってませんでしたよ。


「謝られることじゃない、ですけど」


 うれしいといえば、うれしいし。


「違うよ。謝ることだよ。そんなに、想像でもよごしたくないってほど大切にされてるなんて、考えたことなかった。えへへ、うれしーな♡」


「うれしい、ですか」


「うん、うれしー♡」


「そう、ですか。そう思ってもらえて、僕もうれしいです」


 なんだろう。すごく恥かしくて、うれしい。

 先輩を見ると、ニコニコしていた。僕はどんな顔をしてるんだろう?


「水着着てあげたの、なんでかわかる?」


「この前、僕が見たいって言ったからですか?」


「そーだよ、後輩くんの希望だからだよ。他の誰が言ったって、着てあげないし見せてあげないよ? 後輩くんにだけ、特別」


「それは、ありがとうございます」


「うん♡ ちゃんとお礼が言えてえらいね、頭なでなでしてあげよう」


 先輩は僕の頭をなでながら、


「だからね。わたしと、ちょっとだけ遊んでくれるとうれしいな♡」


 甘えた声でおねだりをしてれた。

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