第5話 きれいですって褒めろ!

 8月も後半に入り、僕が夏休みの課題をすべて終わらせた頃。


『旅行から帰ってきたよ~ お土産あるからうちきて』


 先輩からメッセージが届いた。

 どうやら先輩、今年の夏は海じゃなくてヨーロッパの美術館巡りをしてきたらしい。


 翌朝。呼ばれた通り先輩のお家に。

 出迎えてくれた彼女は夏っぽい水色のワンピース姿で、いつにも増して美少女様なよそおいだ。


「日本は暑いねー、もうちょっとスイスですずんでくればよかったよー」


「なんですかそれ、セレブぶりますね」


「えっへん! 実はスイス行ってないけどね。なんか涼しそうでしょ? 山の中だし」


「そうですね。スイスといえば山ですからね」


 行ったことないけど。


「そういえば昨日きのうさー、テレビでアイドルの子がマンホールって言ったとき、ゾワってしたんだよねー。それで気がついたんだけど、マン、ホール。まんの穴だよ? ふへっ♡ ヤバイよね、エロすぎだよ〜。ふへへ、まんほ〜る♡ 油断してたよ、見逃してた」


「よくそんなこと思いつきますね。先輩、ある意味天才ですよ」


「でしょ〜? もっと褒めたまえ。でもさこれ、前に後輩くんが満喫まんきつって言ってたからだよ? だって同じだもん。ふたりの勝利だよ」


「あはは、僕は関係ないですって。本当に関係ないです。先輩だけの勝利ですよー」


 そんな会話をしながら廊下を進み、いつものように先輩の部屋に通される。ここに招いてもらうのは4度目、少し慣れてきたかも。


 僕を先に部屋に入れ、ドアを閉める先輩。


「なんでカーテン閉まってるんですか」


 室内は遮光カーテンが陽光を遮り、部屋はLEDライトが照らしていた。


「ほら、暑いでしょ? このほうがクーラーの効きがねー」


 ウソだ。先輩、ウソついてる。この人はウソつくとき、目が泳いでキョドった感じになる。

 まさに、今のように。


「ほらほら、後輩くんの指定席だよー」


 ベッドに座るよう、うながされる。ここ、僕の指定席なのか?

 先輩のベッドのふかふかな感触には慣れてきたけど、ドキドキするのは変わらない。だって匂いが、女の子のいい香りがするから。


 いつもなら僕の左隣に座るのに、先輩は正面で仁王立ち。


「どうしたんですか?」


 先輩の指定席はここでしょ? そうつげるように、僕は左手で隣をポンポンする。


「ちょっ、ちょっと、目閉じてて」


「なんでですか」


「お土産! サプライズなのっ」


「あぁ、そうですか。ありがとうございます」


 僕が目を閉じると、


「いいって言うまで、目開けちゃダメだからね!」


「はい」


 すると、明らかに『服を脱いでいる音』がするんですけど!

 な、なにこれ!? 先輩なにしてるのっ。


「開けて、いいよ」


 いいって言われましても、本当にいいんですか!?

 だって絶対、服脱いでましたよね!


 最初は薄目で、こわごわ目を開ける。

 僕の視界に入ってきた先輩は、


「どうだ! きれいですって褒めろっ」


 白のビキニ姿だった。

 ぶるんぶるんの大きなお胸に、高い位置でキュッとなった腰。脚なんかめっちゃ長くて、この人、美の女神かなんかなの?


「は、はい。きれい、です。お美しく……ございます」


 人間じゃないのか? あまりにきれいすぎるんだけど……。


「いや、そんな女神をあがめるような顔と賛辞さんじは、期待してなかったんだけど」


 でもこれ、ちょいマズくないか?

 個室で、水着の先輩とふたりきりだぞ。僕、ガマンできるのかな? いろいろと。


 くるっと回って、全身を見せてくれる先輩。おしりの布面積が少なくて半分くらい見えてるし、動きによるおっぱいの揺れに精神が刺激され、股間のアレがむくってしちゃったんだけど。


「わたしって色白でしょ? 白だとなんだか裸っぽく見えない?」


 ニコニコ顔の先輩。どんな答えを期待してるんだろう。そんなこと言われたら、裸っぽく見えちゃうじゃないですか。


「あれ? 喜んでくれないの? 後輩くんは絶対、白が気にいると思ったんだけどなー」


「す、すみません。あまりにきれいなので、言葉が出ませんでした」


 あと、自分勝手におっきした股間のアレを隠すのに神経を使っていますので。


「ふふんっ。そうだろう、そうだろう」


 でも、


「これが、お土産なんですか?」


 お土産どころの価値じゃないけど。

 これ、人生でも最高級のイベントなんだけど!


「そうだよー。この水着、海外のブランド品だぞー。後輩くんは、わたしの水着姿を一番よろこんでくれるって確信してたからね。自分で選んだんだよ、きみがよろこびそうな水着。どうかな? うれしー?」


「それは、うれしい……です。とってもうれしいです」


「うん♡ ならよし!」

 

 左隣に腰を下ろした先輩が、僕の耳元に唇をそえて、


「恥ずかしくなるくらい、褒めて♡」


 要求してきた。


「どう言えばいい、ですか?」


「それは後輩くんが考えてよー」


 難しいな。誰かを褒めるなんて、そんなしないし。


「先輩は……桃咲ももさきしずさんは、僕が目にしたすべての中で、一番きれいな存在です」


 素直な気持ちを言葉にしてみた。

 どうしたんだ? 先輩、唇がぷるぷるしてるんだけど。

 震える唇で、


「そ、それから?」


 先輩がうながす。


「お顔もスタイルもすてきですし、僕は先輩の声が大好きです。聴くと落ち着くのにドキドキして、声を聴くたびにもっと聴きたいって願ってしまいます。こんな気持ち、先輩にしか感じません」


「う、うん……」


「先輩は僕の特別な人で、大切な人です。すてきなお土産を、ありがとうございます。僕は幸せものですね。うれしいです」


 あれ? これって先輩を褒めてることになるのか? ただ、自分の素直な気持ちをつげてるだけなんだけど。


「……ふわぁーっ!」


 先輩が大きく息を吐く。


「攻めすぎ、だよ? グラグラなっちゃうでしょ!」


「なんのことですか。褒めろって言ったの、先輩じゃないですか」


「もう! しょうがない後輩くんだ。わたしのこと好き過ぎじゃないの!?」


「好きですよ? 好き過ぎって言いますけど、先輩を好きにならないわけないじゃないですか。世界で一番すてきな女の子なんですよ? 自覚してください」


 先輩また、唇を結んでぷるぷるさせてる。こんな表情は初めてだ。なんだろうこれ? かわいい。

 そんなかわいい表情に見惚れる僕に、


「ねぇ……後輩くん。(ピー)って、言ってみて?」


 ちょっとやばいくらいに直接的ないんを口にして、僕にもその言葉をねだってきた。

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