【三章】 不穏と静寂
静まり返った図書館に、ふたりの足音が反響する。
歩みを止めたふたりはふと、この図書館の違和感に気づく。
本は散乱し、机はひっくり返され、何個かの椅子は血痕がついている。
どう考えたって普通ではない。
…ここで争いが起きて、この椅子は鈍器として使われたのだろう。
さらにカーペットは一部が裂けている。剣で切り裂かれたようなまっすぐな裂け目は、争いの周到さを物語る。
かなり荒れ果ててはいるが、幸運にも書物は読むことができる状態に保存されていたようだ。
見上げるほど高い天井と、天井まで壁一面に埋め込まれた無数の本棚。
「すごいね!あんな高いところにも本があるの?一体どうやって行くん——」
アルマがそう話しかけると、ペルラは真っ青になりながら「シーッ」と彼の口に人差し指を当てた。
咄嗟のことにびっくりしたアルマは「え…?」と声を漏らす。
ペルラは顔をぐっと近づけて小声で言った。
「図書館は静かにしなきゃ!“エスター”に怒られちゃうぞ…」
なぜかこのフレーズが頭をよぎって咄嗟に口に出したけど、よく考えたら支離滅裂だった。
「え…エスターって、誰…?」
アルマはきょとんとしてペルラを見つめる。
…何と言ったって、全くその通りなのだ。
エスターって、誰…?
ペルラは「…ごめんね」と言って黙り込んだ。
しばらく沈黙が続いたのち、気まずくなった空気を打破するようにアルマが口を開く。
「ね…図書館の本ならさ、何か記憶のヒントがありそうじゃない?」
「………」
ペルラは黙ったまま、指をクイっと動かす。
すると、本棚にあった一際大きな1冊が飛び出してきてペルラの前にとまった。
ペルラはその本を手に取る。
——高級そうな、分厚い本だ。
見出しには【メドゥシャーダ王国誌】と書かれていて、この国の成り立ちや神話・伝承などについて記されているほか、歴代国王の名前とそれぞれの時代に起きた出来事…国史が書き込まれている本のようだ。
******
「ねぇ、ペルラ…」
「ん?」
「この話…って…」
…王国誌の最後の書き込みは、
『隣国ボルデカーラの戦争に伴って、メドゥシャーダ内部で反乱が起きた』
という内容だった。以降は書き込みが途絶えている。
「ボルデカーラ………?」
確か記憶を失う前、この国に強い怒りを覚えていた…ような気がする。
記憶を失う前に、何があったというのか。
必死に落ち着きを保ちながら、尋ねる。
「ねぇ…アルマって———」
******
何か思い出せそうなのに、何も思い出せない。
アルマは気まずくなり、「他の部屋も見にいく…?」と尋ねる。
「そうだね…」
こうしてふたりは、図書館を後にした。
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