【一章】 目覚め
何か物音を聞いた気がして、ペルラは目を覚ます。
「ここは…」
昨日何をしていたのか、ここがどこなのか、そもそもどうしてこんなところにいるのか…何も覚えていない。
昨日の記憶もないし、その前の記憶もない。
唯一はっきり覚えていて、その上頭に焼きついて離れないのは、「ペルラ様」と呼ぶいくつもの声たち。
「ペルラ」
きっとそれは、僕の名前。
暗い回廊を抜け、階段を上がる。
辺りを見渡すと、ここがかつて巨大な石造りの建物だったことが伺える。
しばらく探索して出口を見つけたペルラは、なぜかその扉の開け方を知っていた。
「———」
重い石扉が開き、ペルラは外に出る。
するとその先で、ひとりの少年が階段に腰掛けているのが見えた。
「ねぇ!!!今の!!どうやって開けたの!?」
ペルラと同じぐらいの背丈少年が、目を輝かせながら続ける。
「ここにはかつて、魔法が最も栄えた国があって…って話を聞いたことがあるんだけど、まさかほんとに…?」
“アルマ”と名乗るこの少年は、「ボルデカーラ」という国の出身のようで、戦争から逃げてここまでやってきたという。
「今は子供だけど、大人になったら僕は敵国と戦わなくちゃいけないって…」
戦争が嫌で「逃亡」したアルマは、かつてこの地に魔法で栄えた平和な国があったらしいという話を知り、「何か見つかるかもしれない」とここまで歩いてきたそうだ。
「ねぇ、この建物はもともと何だったの?」
アルマは目を輝かせる。
…しかし残念、僕には記憶がない。
期待に応えてあげられない。
知らない。思い出せない。こんなにも懐かしい場所なのに…
しばらく黙っていたので不安になったらしい、アルマはさっき起きたことを再確認する。
「え…だってきみ、今さっきここから出てきた…よね?」
「…そうだね」
ペルラの何か煮え切らない言い方に、アルマは怪訝そうに表情を曇らせて続ける。
「ってことはさ…、メドゥシャーダの人…なんだよね?」
——メドゥシャーダ。
ペルラは自身の記憶の霧が、少しだけ晴れたような気がした。
この単語にひどく懐かしさを覚えた…聞き覚えがあったからだ。
確証はないが、きっとそう…。
「…わからないんだ、目が覚めたらここにいてさ」
僕は結局、誤魔化すことにした。
教えてあげられたらよかったんだけど、とペルラが言うと、その言葉に反応したかのように建物がぼんやりと光りを発した。
…そのさまはまるで、ふたりを呼んでいるかのように見える。
ペルラは自己紹介がてら、思い出せる限りの情報と自身の名をアルマに告げ、聞いたことある?と聞いてみたが、アルマは首を小さく横に振って知らない、と言った。
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