第13話 執着
セレナは
それにしてもセレナの適応能力に舌を巻いた。もうすでに最寄りの宅配便会社の倉庫での受け取りで注文を完了していた。しかも下着やらなんやらと10万円弱買っていた。容赦がない。量が多いからか近くのコンビニでは受け取れなかったらしい。
セレナが去ったあと俺はネットで調べものをしていた。具体的に言うと、なぜダンジョンでこのような行いが可能なのかだ。
それはすぐに解った。
つまりダンジョンの中では──死亡したとしても死亡しない──らしいのだ。
ダンジョンの入り口には帰還石と呼ばれる、いわゆるセーブポイントのようなものがあり、ダンジョン内で命を落とすと、そこに無傷の状態で復活するらしい。すごい。ただ全裸で戻されるし、持ち物はすべて現地に残されるらしい。
DOTVとこの世界ではダンジョンの成り立ちが違うのかもしれないな。
この世界の俺もなんとなくそういう物があると知ってはいたが、あまり興味はなかったらしい。自分の生活で精一杯だったもんな……。むさい男のネットの使い道なんて限られている。
「それにしても、どうしたもんかな……」
セレナにはああ言ったものの、なんとかする方法なんて何も思いつかない。ただ俺の中のヴァイスラウプも、あのような行いは許せないと怒りの炎を燃やしているのが伝わってくる。
ぽちぽちとマウスをクリックしながら、ダンジョン配信やダンジョンで撮られた動画を見てみる。
1つ目の動画を飛ばしながら見てみる。
ただカップルがイチャつきながらダンジョンを歩いているだけだ。
チャンネル名は『ゆうみなチャンネル』。ゆう君とみなみちゃんなる二人組が低階層で歩き狩りしている姿が延々と垂れ流されていた。イチャつきやがって……。
ダンジョンキャンプチャンネルはおじさんが肉焼いてるだけのものもあれば、妙にボディラインの出る服を着た若い女がキャンプしながらゴロゴロしているものもあった。
西東京市──そんな市あったんだな──にあるダンジョン、小金井ダンジョンが、低難易度ダンジョンの中でも特に有名らしい。
低層にはアクティブのモンスターが存在せず、しかも水場が豊富で薪も拾いやすいようだ。トイレと水道があったらもうキャンプ場だな。
ちょうど再生した動画では、男が指先に火を灯し、その火を使って焚き火を熾す様子が映っていた。
これは恐らくDOTVにあった≪火の魔法1≫の≪点火≫の魔法じゃないか?
ティンダーマンと名乗るふざけた男はそのまま料理を始めた……。次!
ため息を吐きながら動画を見て回るが、真面目にダンジョン攻略してるやつがいねぇんだが!?
諦めかけていた俺の目に、現在ライブ中の配信の動画が目に留まった。
『天下布武(攻略)』と表示される飾り気のないチャンネル名。
どうやら岐阜城にできたダンジョンを専門で攻略している天下布武と名乗るパーティーのチャンネルらしい。
見てみると、後衛の人間の頭にカメラを付けて垂れ流しているだけの画面。非常に見難い。それなのに視聴者が10万人も居る事実に俺は驚愕した。
どうやら調べてみると、現在活動している配信者パーティーの中でも指折りの実力者たちらしい。
岐阜城ダンジョンは推定全8階層からなるダンジョンで、現在このパーティーは第7階層。通称二の丸を攻略中らしい。
「素晴らしい……」
俺は思わず声を上げてしまった。このパーティーは真面目にダンジョンを攻略していたのだ。
画面では茶色っぽい地味な鎧の男が、黒い鎧を着た骨の落ち武者の群れを食い止め、そこに後ろに居た陰陽師の格好をした男が人型の紙……形代だっけ? を投げ付けると青白い炎が現れ、落ち武者たちを焼いていく。
カメラを装着している人物は右手に神楽鈴を持っており、時折聞こえる声から女性のようだ。
DOTVの和風文明に陰陽師と巫女が居たな。この世界の日本はその文明に近しい扱いなのだろうか? でも茶色の鎧なんてあったか?
画面を見ながら唸っていると、画面の奥側で黒い風が吹いた。凄まじい勢いで落ち武者たちが細切れになりながら吹き飛ばされていく。
その様子にコメントは大盛り上がりであった。姫! 姫! と大合唱である。
すべての落ち武者を蹴散らした姫と呼ばれる黒い人影は、そのままの勢いでカメラの持ち主である女の前にまさに風のように現れた。
姫と呼ばれる女は、自らが起こした風を受けてたなびく黒い髪を手で撫でつける。まるで絹のような輝きを放つ腰まである髪。なぜか場違いな黒セーラー服を着て、自分の身長よりも長そうな大太刀をこともなげに振り回している。
その時、ドクンと俺の心臓が脈打った。
◇────────────────◇
私は天下布武のヒーラーを務める巫女の
私は安堵していた。
今回限りだと半ば土下座までして連れて来た甲斐があった。しかし結果としてやはり
自分たちのチャンネルは、日本のダンジョン攻略チャンネルの中でもトップクラスの勢いがあると自負している。
前回攻略配信後、パーティーメンバーの槍使いの青木が淫行で逮捕されるという不祥事があった。
その時の謝罪配信同時接続者数が約8万人。
一時期は視聴者が激減し、4万人を割っていたものの、現在は10万人を超えて伸び続けている。悔しいけれど周姫のお陰だ。
「癒しよ!」
考え事をしながらも神楽鈴を鳴らし、治癒の魔法を行使する。盾役の土田の体が淡く輝き、その体の傷を癒していく。その奥では、周姫が
二の丸の最奥には守護者と呼ばれる落ち武者が居る。周りの黒い鎧の落ち武者とは違う派手な鎧と兜で床几に座り、じっとこちらの様子を見ているのだ。そして落ち武者を8割方片付けると、残りの2割とともに戦術的な動きを取り始める。
しかし雑魚落ち武者をすべて倒してしまうと守護者が強化されてしまうギミックがあったのだ。その罠にかかり、前回挑戦時にはパーティーが半壊。そして一部装備を失うことになってしまった。今思い出しても血の気が引く思いがする。
大方落ち武者を蹴散らした周姫が私のもとへ帰って来る。私は神楽舞を踊り、周姫に退魔の加護を授ける。私が舞っている間の配信のコメント欄は大変なことになってるんだろうな。酔いそう。
私の視界の隅で周姫がペットボトルの水を飲み干した。ここから失敗は許されない。
そう思った瞬間、まるで世界を裂くような音を立てながら私たちと守護者の間に闇が現れた。
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