第14話 周姫
”え? これ前回と違くない?”
”新ギミック??”
”寧々ちゃんの頭にカメラ付けたやつ絶対に許さん”
”さっきからずっと気持ち悪いんだが?”
周期は自らが投げ捨てた空になったペットボトルが地面に着く頃には、その闇の前に到着していた。日本の探索者最強と言われるだけはある。諸説あるが……。
「はぁ……僕らのためにわざわざ豪華なお出迎えしてくれてはるんかな?」
息を切らせながら私の元に駆け付けたのは陰陽師の芝井。お得意の雅な嫌味も今日はキレが悪い。
闇の中から最初に現れたのは馬の首だった。
濁った赤い目をした巨大な馬がゆっくりと闇の中から進み出ると、その背には手にハルバードのような武器を持ち、黒い全身鎧を纏った男が乗っている。闇がかき消えると、馬がぶるると嘶いた。
”新ボス??????”
”これヤバない?”
”姫が居るからいけるだろ”
”撤退しろ!!”
”姫ェ! 姫ォ!”
”俺が吐いてる間に何が……?”
腕に付けた配信用の端末のコメント欄がすさまじい勢いで流れていく。その間も出てきた騎士は微動だにせず、こちらの様子を伺っている。
「ど、どうすんだよ!」
私たちの前に立つ土田は及び腰だ。前回の失敗も踏まえると撤退だ……。そう声を出そうとした時、最初に動いたのは守護者の方だった。
「グワアアアアアアアアアァッ!!」
雄たけびをあげながら守護者が襲い掛かったのは……黒騎士!? 骨のくせにどうやって声を出してるんだか。もう探索者なんて辞めたい。
「どないなってんねん!?」
芝井の悲鳴にも似た声があがった。芝井は神経質でプラン通りに事が運ばないと取り乱す癖がある。おうちに帰りたい。
私が再び撤退と声をあげようとした刹那、黒騎士がブンと腕を奮った。私にはそれは風が吹いたようにしか見えなかったけど、その一振りで守護者は粉々になって吹き飛んだ。
「え……?」
”どういうこと!?”
”仲間割れ?”
”何が起きてるんだ”
”よく見えねーよもうちょっといいカメラ買え!”
”解析班んんんん!!”
”誰か説明してくれよ!”
”デデデン!”
コメント欄が加速していく中、二の丸最奥の門がゆっくりと開いていく。
「クリア……ってことか?」
無音になった広間に芝井の声が響く。しかし、その声に誰も答えようとはしない。
私は腕の端末をチラリと見やると同接は16万を突破している。過去最高を今尚更新し続けている。
ブルルと馬がいななくと、ゆっくりと黒騎士はこちらに歩き始めた。……こちらと言うよりは周姫に向かって……?
「今門さん! う、後ろに!」
土田が庇うように前に出る。完全に足が震えているし、なんというか……いいところを見せようとしているのが滲み出ていて、私は思わず舌打ちをした。
”土田はホンマ……”
”そういうところだぞ”
”本当に敵か? 味方じゃね?”
”舌打ち草”
”姫はやめとけやめとけ!”
”なんとかなったのか?”
土田が盾を構え、黒騎士の前に立ちふさがると、さらに黒騎士が大きく見える。黒騎士は土田を意に介さず、止まる様子を見せない。
「ま、待て! どこにっ……」
情けない土田の声は全て発されることなく、空に消えた。
「え?」「は?」
私と芝井の間の抜けた声が漏れた。続いて吹き飛ばされた土田が落ちた音がする。何もなかったように黒騎士は周姫の前で足を止めた。
「ぐえっ!」
モンスターの素材とカーボンを組み合わせた盾が四散しているのが見える。
一呼吸置いて落下した土田は、地面の上で悶絶している。
”攻撃されてんじゃねぇか!”
”逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ”
”土田生きてるかぁ!?”
”誰だよ味方とか言ったやつ”
”絶対ヤバいって!”
”ま、まだ敵って決まった訳じゃないから(震え声)”
「撤退や……」
芝井がそう呟く。
「周姫! 時間を稼いで! 芝井も!」
私の叫びが届いたのかどうかはわからなかったけど、周姫が黒騎士に斬りかかる後ろ姿を見ながら、私は土田に向かって走り始めた。
「なんだよあいつ……ふざけんなよ……」
土田は治癒の魔法をかけられている間も、ブツブツと悪態を吐き続けている。
芝井の式神も攻撃魔法も黒騎士には効果がないようで、周姫と黒騎士はひたすら剣戟を繰り広げている。
甲高い金属のぶつかる音が響き続ける中、治療が終わった土田が立ち上がる。
「撤退するわよ」
「ごめん、僕の盾がなくなってしまったからだね……」
「……チッ……」
”また舌打ちしとるw”
”癖になってきた”
”土田、そういうとこだぞ”
”いいからはやく逃げて!”
”姫はどうなってんだよ土田は映さなくていいんだよ!”
”このカメラほんとクソだな”
”キンキンうるせぇけどどうなってんだ?”
「周姫ィィ! もういいわよォォォ!」
私が叫ぶと周姫が黒騎士と距離を取った。芝井の攻撃はともかく、周姫とあれだけ打ち合っても黒騎士は無傷で何事もなかったかのように悠然と立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。