第11話 もう1つの世界
日本式家屋での過ごし方についてセレナにレクチャーしたあと、俺たちはリビングに集まっていた。と言っても居間としか言いようがない和風な空間だけど。
ようやく最低限文化的な服装を身に着けることができた。ありがとう、この世界の俺。
「……という訳なんだ」
居間から見える庭にはバルトゥの巨体が見えている。生えっぱなしになっている雑草を食べているらしい。
俺はあらましをセレナに話した。目覚めてからファシルース教のおっさんを殺したこと。そしてセレナと出会い、もう一人の自分と出会ったこと。
「そうだったのですね……。ではここは主の御実家になるのですね」
「ああ、厳密に言うと違う気はするんだが……」
そう。違うのだ。
確かにここは俺の実家なのだ。葬式をしていたはずなのに、それが片付けられていたりと様子がおかしかったのもすべて何故かわかった。
もう一人の俺が居たことも、もう一人の俺に触れたことでわかってしまった。
「ここは俺が居た世界とも、セレナが居た世界とも違う世界のようだ。俺たちはその中間のような世界に来てしまったらしい」
寝ていた俺を触ったことで俺たちは融合……? いや、吸収してしまったのだろう。この世界の俺をヴァイスラウプである俺が吸収した。
この世界の俺には申し訳ないことをしたとも思うが、俺と似たり寄ったりのクズだったので、まぁ許してもらおう。事故だし。
吸収した際にここの俺の記憶も吸収してしまったのだけど、この世界は現代の日本だがダンジョンがある。そしてダンジョンから溢れた、いわゆるモンスターたちによってかなりの地域が進入禁止だったり制限がかかっていたりするようだ。
今現在居るこの家も進入制限地域らしい。最近この近くのダンジョンから魔物が溢れているのが確認され、転居することを推奨されているようだ。この世界の俺は一般人男性無職なりにゴブリンを狩って生計を立てていたらしい。正気か?
「それで先ほどゴブリンが居たのでしょうか?」
可愛らしく首をかしげるセレナ。黒いドレスのシスター服を着たセレナは和室の居間とまったく調和していなかった。
「そうみたいだ」
この世界の俺は戦闘能力がほぼなかった。戦闘力5の農民レベルだ。いやでもあの農民は、ショットガンを持っていて戦闘力5だったからそれ以下か。
自宅の近くに現れたゴブリンを倒すこともあったようだが、ほとんど何もしていなかったらしい。安全な地域に引っ越すにはそこそこの金額が必要だったようだ。……つまり八方塞がりだったんだな……。
するとつまりさっき倒したのが溢れてきてたやつで、ゴブリン(大)が向かった先の砦がダンジョンってことか? 近いうちに見に行かないとだめかもしれないな。
「それでこれは何なのでしょうか?」
セレナは机の上に並べられていた紙幣とカード類に目をやりながら不思議そうにしている。
「これはお金と身分証だな。これで当分はなんとかなりそうだけど、セレナの分は用意できないかもしれないな……」
この現代日本で、戸籍のない人間をどうすればいいのかなんて、俺にはわからないぞ?
「車の免許証。現金8万円と預金通帳。それと三級探索者許可証……」
この世界の俺がまだ家に居られる理由はこの探索者許可証のおかげらしい。一番下の三級だけど、ここはまだ制限地域と呼ばれる、探索者許可証があれば誰でも入れる地域らしい。
それからセレナを客間に通し、布団の使い方などを教える。なぜか非常に不満そうな顔で話を聞いていた。
◇────────────────◇
「嗚呼! 今日も主の御顔を拝する…」
「おはようセレナ。夜はもう少し静かにしてもらえると助かる」
朝からそんな遣り取りをしながら朝食を摂る。セレナは「待っていましたのに!」と憤っていたが知りません。
昨夜は疲れていたのですぐに寝てしまったが、これからやらなければいけない事は山積している。
まず食料などの買い出しに行かなければならない。
我が家に残された食料はカップラーメンが2個と米が少し、それとインスタント食品や缶詰が少しだけだった。どんな生活してたんだと言いたいところだが、俺も似たような生活をしていたので何も言わないことにした。
次に魔石の換金。この世界の俺はゴブリン単体ならばなんとか倒せていたようだ。そのコツコツと1ヶ月貯めていた魔石が、玄関先に停めてある軽トラの助手席にある。
記憶によればそれを売却すれば約20万の収入になるようだ。それを町役場(出張所)に持っていけば計量、換金してくれるらしい。
最後は急ぎではないが裏山のダンジョンの確認。ダンジョンは山一帯に広がっているようで、この世界の俺は外縁から迷い出てきたゴブリンを倒すので精一杯だったようだ。ついでにその中にあるらしいゴブリンの砦を見ておきたい。
それにこの世界で俺がヴァイスラウプとしての力を十全に
俺はセレナと二人でカップラーメンを啜りながらそんなことを考えていると、ふとセレナを見やるとプラのフォークを片手にマジマジとカップラーメンの容器を顔の前に持ち上げながら、声を出した。
「主よ、これはなぜ ”かやく“ と申すのでしょうか?」
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