第10話 もう1人の自分
俺たちはゴブリンの死体を掃除したあと河原から少し下流に移動すると、すっかりと陽も傾き始めており、辺りは夕日に包まれていた。
ちなみに死体はセレナが≪浄化≫の魔法をかけると魔石を残して塵となって消滅した。そんな使い方があったのかとゲームにはなかった使い道に感心しきりだった。残された魔石はとりあえず袋に入れておいた。
そのまま進んでいくと、ついに先ほどからあった既視感が俺の中で見ている景色と繋がった。ここ家の近くの河原じゃないか?
よく祖父の釣りに付き合わされて来たところだ。対岸に見える大きな桜の木も見覚えがあった。
「バルトゥ、あっちに向かってくれるか?」
指し示した方向に進むと、荒れたアスファルトの道が見えてきた。
これは一体どういうことだろうか? 俺の居た世界にゴブリンが現れたってことか?
「主よ! 黒い道です!」
セレナが振り返りながら報告してくれる。うん。報連相は大事だよな!
セレナに頷き返すと、バルトゥの背を軽く叩く。
「急いでくれ、バルトゥ!」
頼み方が悪かったのか、とんでもない速度で走り出したバルトゥに俺たちは必死でしがみついた。
◇────────────────◇
まるで安全バーのないジェットコースターのような乗り心地だった。バルトゥがゆっくりと速度を落としていくと、見覚えのある実家が現れた。
山間にある平屋の一軒家。農具なんかが詰め込まれている納屋もある。
誰かが片付けてくれたのか、祖父の葬儀のために準備した物がすべてなくなっていた。起きたらやらなきゃと思っていたので助かるけど、一体誰が……。
バルトゥとセレナには少し待っているように言い、俺は家にあがった。もしかしたら片付けてくれた人が居るかもしれないと思ったので、その確認だけはしておきたかった。いきなり黒レースドレスのシスターとバカデカい馬が来たら驚くだろう。
「ただいま戻りましたよー!」
声を掛けながら家の中を見回ってみると、家具の配置が変わっているところが多数あった。空き巣でも入ったのか!?
俺は慌てて自室に向かうと、そこには仰向けで布団に
まったく想像できなかった光景に言葉が出ない俺は、無言のまま俺を起こそうと俺の肩に手を掛けた。
その瞬間、俺の体に凄まじい量の記憶が流れ込んでくる。目の前が真っ白になり、俺は意識を失った。
◇────────────────◇
「主よ、お目覚めになられましたか?」
目を覚ました俺はすっかり暗くなった部屋でセレナに膝枕されていた。
「え? ……セレナ、どれくらい経った?」
最初に目に入った布団には誰も居ない。
気を失っていたことと、もう一人の俺の記憶が流れ込んできたことの驚きも、膝枕されていることですべて吹き飛んでしまった。なぜかそれが悔しかった俺は努めて冷静に問う。膝枕されながら。
「あっ♡ んんっ♡ 1時間くらいでしょうか……?」
俺が頭を動かすたびに喘ぐセレナ。こいつ本当にブレないな……。
立ち上がり、部屋の照明を点ける。
「きゃっ!」
急に明るくなったことに驚いたセレナは、目を押さえて、正座のまま体をくねらせている。
「どうした行くぞ」
「あ、足が痺れてぇ♡」
恍惚とした表情でくねくねとし続けるセレナに俺は告げる。
「あとうちは土足禁止だからな」
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