第9話 蛮族

 ともかく、俺は自信満々でバルトゥから降りた。蛮族同士きっとわかり合えるよな! 俺は笑顔で手を大きく振りながら、可能な限り友好的に声を掛けた。


「すいませーん! 少しいいですか?」


「グギャジャズギ!? シャッ!」


 朗らかに声をかけた俺の顔の横をかすめるように矢が通っていった。そしてゴブリンたちは各々粗末な槍を構えると、こちらに走って来る。……あ、あれ? 友好的なはずなんだけどな?


「マジかよ……。所詮、蛮族か!」


 俺が声を荒げると、バルトゥは俺が静止する間もなくセレナを乗せたままゴブリンの群れに突撃して行った。そして数十秒後にはすべてを踏み潰して帰って来た。つよい。


「これが主のお力!」


 セレナは大きな胸の上に乗せるように手を組み、目を輝かせながらこちらを見ている。


 全部バルトゥの力だと思うけど、セレナの中では俺の力らしい。


 俺が思考停止していると、「わ、私……我慢が……」などと言いながら服の上から胸を揉みだす。バルトゥがはちゃめちゃに嫌そうな顔で俺のことを見ているけど、俺はそっとゴブリンが居た方向に視線を逸らした。


 結果的にそれは正解だった。一人のリーダー格らしきゴブリンが、ボロボロになりながらも立ち上がろうとしていたからだ。


 すると俺の中のヴァイスラウプが、あのゴブリンの願いを叶えろと囁き始める。


 俺はいまだ立ち上がれないでいるゴブリンに手をかざし、ヴァイスラウプの力を使った。

 

「お前は何を望む」

 

「ッ……?」


 瀕死のゴブリンは声も出せないでいる様子だったが、俺がその姿を見ていると、怒りと憎しみに満ちた瞳と目が合った。


「……ギャ……ゲゥッ……」


 ゴブリンは微かに声を上げると、そのまま河原にバタリと倒れ込んだ。しばらくして何か濃密なオーラのようなものがゴブリンに集まり始める。やつはまだ変身を残していたっていうのか……!?


「ああんっ♡ なんて禍々しくて力強いマナでしょうか! んあっ♡」


 驚くか喘ぐかどっちかにしなさい。どっちかに。


 セレナの解説? によるとあれはマナらしい。強者が持つ独特なオーラのようなものを放っているのか? 全然わからん。


「なんかすごいことになってるな……」


 どこか他人事のようにその様子を見ていると、どんどんとマナが集まっていき、高さ4メートルを越える大きさまでゴブリンの体を包み込むマナが膨れ上がっていく。


「グオオォォッ!」


 その靄がかったマナが晴れると同時に、中から先ほどのゴブリンとは似ても似つかない巨体が現れた。


 立ち上がったゴブリンは4メートルどころではない大きさだ。でっかっ……などと思っていると、立ち上がったゴブリン(大)はいきなり土下座した。ゴブリン(大)は全裸だが、別に着ている服を横に畳んで置いてはいない。


「お許しを頂きたく……」


 ここで俺は気付く。スキル『蛮族語』と『指揮1』のスキルを得ていることに。


 そして流れ込んできたゴブリンの記憶によると、ゴブリン(大)はなにやら下克上をしたいらしい。少し離れたところにゴブリン(大)が追放された砦があるようだ。ちなみに彼には名前がないらしい。


「……許す」


「はっ!」


 返事を聞くや否や、巨体に似合わぬ素早さでゴブリン(大)は木々を揺らしながら森の中へと走り去って行った。……なんだかわからんが兎に角ヨシ!

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