第6話 セレナ

「……うぅっ……あはっ……わたし……」


 通路の先から微かに聞こえてきた声は大陸共通語だった。もう嫌な予感しかしない。漂って来る臭いも酷い。ろくでもないことになっているのは間違いなさそうだ。


 覚えたて──俺としてはだが──の大陸共通語を口に出す。なかなか言い慣れていないので若干アクセントがおかしい気がするな。


「もしもし! おーい! 誰か居ますか?」


 松明を前に突き出すようにゆっくりと進んで行くと、その先には牢屋があった。


 左右に2つずつ牢があり、それを順番に見ていく。中には鎖に繋がれた死体があり、かなり腐敗しているようだ。俺はあまりの惨さに思わず顔をしかめた。


 左は死体、右は空、右奥も死体。そして左奥に先ほどの声の持ち主らしき人影があった。


「うっ! だ、大丈夫か?」


 ムッと鼻を刺すような臭気が押し寄せる。汚物や血の臭いと腐敗臭。大丈夫かと聞きながら、大丈夫な訳がないとわかってしまう。


 俺は吐き気をこらえながら、松明で人影を照らした。


「あはっ……あはは……えへ……」


 その少女は虚空を見つめていた。俺が声をかけようとも、虚ろな目で松明の灯りを追い、ただただ笑うだけであった。これって壊れてる……。


 両の手は木の枷と鎖で繋がれており、髪はくすんだ黄色でボサボサ。青っぽいローブのようなものを着ているが、体液やら何やらで大半が汚れていた。

 特筆すべきは顔だ。両目をえぐられており、膿と血で皮膚は爛れている。


「あのおっさんマジでよぉ……」


 手枷を外そうと近づくと、少女の手は黒っぽい紫色に変食していた。壊死しているのか? よくこの状態で生きているな……。


 だめだ。例えここでこの少女を解放したとしても、俺には助けることはできない。


 ……いや、方法ならある。


 なぜ俺がヴァイスラウプになってしまったのかはわからないが、DOTVでは邪神って呼ばれてたんだ。神なんだろう? 人一人くらい救えるはずだ。


「お前は何を望む」


 俺がそう口に出すと、頭の中で声が響き始める。この力を使った時の頭痛にも段々と慣れてきた。


 俺が顔をしかめていると、少女にもその声が聞こえたのか、頭を振り乱しながら笑い続ける。


「あはは! ……うぅっ! えひひっ……気持ちいいのぉ!」


  ん? ……気持ちいいの、ですか? 聞き間違えたかな? そこは復讐とかじゃないんか?


 疑問符が頭の中で複数現れている間に、少女が輝きだす。それと同時に俺の体に力と少女の記憶が流れ込んできた。


 名はセレナ。レオニウス教の修道女。男爵家の庶子として生まれ、修道院に入れられる。真面目で温厚な性格で、周囲からも好かれ静かに暮らしていた。


 レオニウス教の聖都への巡礼の旅の途中にファシルース教のおっさんに襲われた。言われてみれば、俺の頭の中にもその様子が記憶されている。まるで頭の中で映像を再生しているかのような、どこか他人事な記憶だ。


 それらの記憶によると、彼女以外はすでに殺されており、彼女は回復魔法の才能があったため今まで生き残っていたようだ。それがおっさんにバレた結果、彼女はおもちゃのように痛めつけられながら過ごしていた。


 その結果、彼女は壊れてしまった。自分の心を守るために、痛みを快楽として受け入れるように。そしてそのまま嬲られ続けた結果、彼女はそういう性癖に目覚めてしまった……。


 そんなことあるか? あるんだわ……。目の前で起きてるんだわ……。


 光が収まると、先ほどまでボロボロだった少女は、美しい金の髪に白く美しい顔≪かんばせ≫。先ほどは血塗れで元は青かったであろうに赤黒く汚れていた修道服も、なぜか黒のレースとフリルが大量にあしらわれたドレスのような修道服になっている。おまけに床や壁の汚れまでなくなっていた。


「……なんこれ」


 俺の驚きを余所に、少女──セレナはガラス玉のような青い瞳で俺の顔をじっくりと見つめている。その表情は歓喜に満ち溢れている。


「嗚呼っ! しゅよ、ありがとうございます!」


 DOTVではヴァイスラウプは敵対しているユニットを寝返らせることがあった。そうしたユニットは使徒と呼ばれ、ヴァイスラウプとともに攻め込んできた。


 裏切った自軍のユニットがヴァイスラウプの加護により、戦闘力が増した状態で襲い掛かって来るのは悪夢だったな……。とても懐かしいよ。


 俺が現実逃避していると、突然セレナはばさりとスカートを翻し、M字開脚を広げて座り直すと、セレナはスカートの端を口に咥えた。


「んっ……んふっ♡」


 白く長い脚に白いニーハイソックスとガーターベルト、そしてその奥にある白い下着と下腹部に刻まれたヴァイスラウプの印が目に飛び込んできた。


「んっ♡ ではぁ、ひつれいして……♡」

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