第2話 探索
とは言え、なってしまったものは仕方がない。
自分の中で何とか現状に折り合いを付けることができた俺は、これからのことについて考えることにした。
ヴァイスラウプの力なのか、室内は真っ暗だが見通すことができた。そしてこの薄暗い部屋の隅に何か通路らしきものが見えているのも薄々気付いていた。
入り口と言うよりは出口だよな?
俺は通路の前に立つと、その先を覗く。通路は全く先が見えず、無限に続くかのごとく漆黒の闇に包まれていた。まるで心霊スポットになっている手掘りのトンネルのようだ。……あんまり進みたくないんですけど……。
ここをライトもなく進むのは怖すぎる。しかも今現在全裸なこともあって大変心細い。それにやや解放感もある。
「あの、すいませーん……。どなたかいらっしゃいませんか?」
まず俺は進むことを諦めて声掛けると言う手段に訴えた。この先に扉があって主治医が出てきて、「落ち着いて聞いてください」なんて言われるかもしれない。
誰かが居る可能性に賭けてみようではないか! そうだ、それがいい!
……しかし通路に自分の声がこだまするだけで、残念ながら何の反応も得られなかった……。
現実逃避の余り室内の壁を叩きながら一周してみた。残念ながら隠し扉など見つからず、ただ手が痛くなるだけである。
体が寒さでぶるりと震えた。
落ち着いたせいか、段々と体も冷えてきた。室内はひんやりとしており、このまま全裸では風邪を引くどころか、凍死すらありえるだろう。
その時、ふと思い出した。ヴァイスラウプには愛馬が居たと。ゲーム内でもいつも黒い馬に乗っていたはずだ。どこに行ってしまったんだろうか?
馬の手も借りたい状況だが、ここで悩んでいてもしょうがない。やけに利くようになった夜目を頼りに、俺は真っ暗な通路を進み始めた。
アーチ状に手掘りされたその通路を進んでいると、奥から微かに風が吹いているのに気が付いた。
どこかに繋がっていそうだ。出られるといいんだが……。
進めば進むほど、何やら風から生臭さと言うか、腐敗臭を感じるようになってきた。生ゴミが放置されつ……いや、詳細は省こう。
俺はそのまま300歩ほど進み続けると、通路はついに行き止まりとなった。ピューピュー鳴る隙間風の音が響き、さらに嫌な臭いが漂ってくる。
目の前の壁にはわずかに縦の隙間があり、そこから臭いが入って来ているようだ。そしてその岩肌には手を掛けられるような窪みがあり、まるで引手のようだ。
……まさかそっちに開くのか?
引き戸を開くようにゆっくりと力をこめる。
すると不快な岩の擦れる音を立てながら、あっけないほど壁は滑らかにスライドしていく。
壁の隙間が俺が通れるほどの広さになると、その先の光景がぼんやりと見えてきた。
むわっと臭気が強くなった。余りの悪臭に鼻を押さえながら、俺はその先の部屋を覗き込んだ。
……部屋の中には折り重なるように人が積み重なっていた。小さな山のようにミイラ化した死体がゴミのように積まれている。
その中央に申し訳程度の通路が通っており、その左右にいくつものミイラの山が遥か向こうまで連なっていた。
ここはカタコンベか何かなのか?
DOTVでは各地に存在する遺跡を調査することができた。その中にはカタコンベ……集団墓地もあった。大体アンデッドが湧き出してきて、調査に送ったユニットが囲まれて死ぬんですけどね、初見さん。
ゲーム内ではマップにある遺跡の上で調査コマンドを実行するだけだったのに、まさか実際に探索することになるとは……。
俺は鼻をつまみながら通路を進む。裸で寒さに震える自分、淀んだ空気と腐敗臭。空腹を訴え続ける腹。ブンブンと飛び回る羽虫。
まるで不快のバーゲンセールのようだ。帰りてぇ……。って言うかもうここ地獄なのでは?
こんなことならもっと蜘蛛でも助けとくんだったな。と益体もないことを考えながら、俺は黙って進んだ。
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