迷宮の邪神、人間どもをバズらせる ~邪神は無法地帯と化したダンジョンを浄化しながら現代日本で生きていく~
内妙 凪
第1話 ヴァイスラウプ
俺の最後の記憶は祖父の葬儀を終え、久しぶりに戻った実家の自分の部屋で眠ったことだった。
俺の両親は事故で早世しており、祖父母の手によって育てられた。
祖母も10年前に亡くなっており、最後の肉親である祖父が逝ってしまったことに呆然としていた。集落の住人たちだけが参列するこじんまりとした葬儀を執り行った。しかしその時のことも余り覚えていない。
疲れ切った俺は築100年以上の実家で一人泥のように眠った。
そこまでは覚えてる。
だけど俺が目を覚ますと、真っ暗な部屋の中で、冷たく硬いテーブルのようなものの上に眠らされていた。
……これは手術台か何かだろうか?
俺は「
立ち上がることも出来ずに混濁する意識が落ち着くまでの間、俺はその石の台の上でひたすら頭の中から何かが飛び出していくような痛みに耐え続けていた。
どれくらい時間が経ったであろうか。ようやく痛みが治まった時、先ほどの問いの答えが出た。
どうやらどちらでもある。ということらしい。
緋上 重樹。27歳、男性、無職。定職に付かず、両親の遺産を食いつぶしながら遊び歩いていたロクでなしのクズ。許しがたいことに、それが今の俺であった。
そして「ヴァイスラウプ」。迷宮の支配者にして、ファシルース教の主神。白き御槍が走れば絶望が波打ち、そしてすべての定命のものに滅びを
痛々しい中二病設定だが、これも今の俺であるらしい。
DOTVをプレイした時にはお世話になったもんだ。
ドゥーム・オブ・ザ・バース。通称DOTV。それは大ヒットした海外産のターン制ストラテジーシミュレーションゲームの名前だ。
元々は地球を舞台にした文明育成シミュレーションゲームだったものが、そのシステムを流用して剣と魔法のファンタジー世界を舞台にスピンオフした作品だ。
強大な力を持った指導者が支配する文明が相争う世界。
世界を滅びへと誘う悪の文明と、それに立ち向かい世界を守ろうとする善の文明。そして様々な思惑を持った中立文明。
プレイヤーはその指導者たちを操り、文明を育成し、世界を思うままに導くことが出来る自由度の高さ。それに加えて重厚なバックストーリー。
それらが前作のファンを含め、手強いシミュレーションゲームを求めるコアなユーザーや作り込まれた世界観を求めるユーザーにウケ、世界販売数800万本を超える大ヒットとなった。勿論俺もドハマリした。
DOTVの世界には破滅度というものがあった。世界の滅亡を願う邪教徒たちが儀式を行ったり、戦争が起こったり、世界に様々な凶兆が現れたりすることで破滅度カウンターは増加していく。
また善良な文明が邪教徒たちを討伐したり、凶兆を浄化したりすることでカウンターは減少する。
俺の記憶が正しければヴァイスラウプが現れるのは破滅度70%。
60%ですべての文明に無差別に襲いかかるクソボスその1が現れ、70%で世界中のダンジョンから魔族が溢れだし、ついでに無差別にすべての文明に襲いかかるヴァイスラウプが現れる。
80%で地獄が地上に顕現しすべての建造物が破壊されたりされなかったりして、90%ですべての文明に無差別に襲い掛かるクソボスその3が現れる。
そして最後にマックスの100%ですべての文明に無差別に襲いかかるクソラスボスが現れる。クソゲーかな?
ギリギリなんとか倒せないことはないけど、世界はめちゃくちゃになってしまいました。めでたしめでたし……となる。そんなバランスだった。
ちなみにDOTVはいくつかの勝利条件があり、それを満たした時にスコアが表示される。クリア時に素早くかつ自文明を発展させてクリア達成すると高いスコアが得られるようになっていた。
破滅度100%でクリアしても世界は危機に瀕しており、人口も文化も建造物も全部めちゃくちゃなポスト・アポカリプスな世界になってしまっているので、もちろんスコアも低くなる。
夢で済ませられればよかったんだろうけど、この体から溢れる力と脳内にこびりついた記憶がそれを否定していた。
俺はどうやらヴァイスラウプになってしまったようだ。
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