第18話 妻の欲目
パーティー終了後、シルヴィーとリュカは宮殿内にある客室へ案内された。夫婦になるのだから、という理由で同室である。
見たことがないほど豪華な調度品のおかれた部屋の奥には、天蓋付きの大きなベッドが設置されている。
「パーティー、疲れましたね」
「うん」
なんとか時間を見つけて満腹にはなれたものの、疲労感は大きい。今ベッドに倒れ込んだら、朝までぐっすり眠れそうだ。
「シルヴィー、怒ってる?」
「なににです?」
「……結婚のこと」
「怒っていると言えば、なかったことにしてくれるんですか?」
「いや、それは無理」
一瞬たりとも間を置かず、リュカは首を横に振った。リュカらしい態度に思わず笑ってしまうと、リュカが唇を尖らせた。
「シルヴィー、俺、真剣に話してるんだよ」
「私だって、真剣に話していますよ」
「……本当にいいの? 俺と結婚して」
「だから、私がどう言っても、リュカさんは結婚する気なんでしょう」
そうだけど、とリュカが寂しそうな顔をする。
ちょっと、意地悪し過ぎちゃったかしら。
「ごめんなさい、リュカさん。私の言い方が悪かったですよね」
立ち上がって、リュカの手をぎゅっと握る。期待に満ちた眼差しで見つめてくるリュカの頭をそっと撫でた。
「私も、リュカさんと結婚したいんです」
まだ、好きになって日は浅い。けれど、リュカを手放すつもりも、誰かに譲るつもりもない。
「たとえ王命がなくたって、私はリュカさんと結婚しますよ。ただ……」
「ただ?」
「もう少しロマンティックなプロポーズがよかった、という気持ちはありますけど」
夜景の見える綺麗なレストランで、豪華な指輪をもらいながら……とまでは言わないが、せめて二人きりの時に言ってほしかった、という気持ちはある。
「ご、ごめん! 俺、どうしてもシルヴィーと結婚したかったから」
「分かってますよ。それに、なんでもくれると言われても、私がいいと言ってくれたことは嬉しかったです」
リュカが望めば、シルヴィーよりも美しい女との縁談を成立させることもできただろう。にもかかわらず、リュカはシルヴィーがいいと、大勢の前で宣言してくれたのだ。
「リュカさん」
「うん」
「結婚式は、フルールでしたいです」
「……フルールで? いいの? もっと豪華な会場とか、ちゃんと用意できるよ」
「大好きな場所で、大好きなリュカさんと結婚したいんです」
真っ直ぐに目を見つめて言えば、リュカは瞳を潤ませた。シルヴィー! と叫んで、勢いよく抱き着いてくる。
「リュカさん。チェキ撮るんじゃなかったんです? 髪の毛、崩れちゃいますよ」
「ごめん! でも今、シルヴィーを抱き締めたくて」
ごめん、と繰り返しながら、さらに強く抱き締める。リュカが力の加減を間違えているせいで、それなりに痛い。
会えなかった間に、力が前より強くなった気がするわ。
それに、身長も少し伸びたかしら。
確かめるように、そっとリュカの腰に腕を回す。
「旦那さま」
そう呼んで、そっと首にキスをする。唇には届かなかったから。
もう、設定でもなんでもない。リュカさんは、私の本当の旦那さまになる。
幸せ過ぎて、頭が溶けちゃいそうだわ。
◆
「なんか、すっごく久しぶりな気がする」
馬車を下りた途端、リュカは周囲を見回した。一ヶ月前と何も変わっていない街を見て、リュカが愛おしそうに笑う。
パーティーの翌日、馬車を借りて街に戻ってきた。相乗り馬車ではなく、個人で雇った馬車だ。
さすが、勇者様の財力だわ。
試験に合格した賞金に加え、今後は国から給料をもらえる。リュカが無駄遣いするとは思えないが、将来のためにも、きちんと管理しなくては。
「馬車の旅も楽しかったね、シルヴィー! やっぱり、二人きりにして正解だった」
相乗り馬車が安いですよ、と言ったシルヴィーに対し、リュカが絶対に嫌だと主張したのだ。二人きりになれなきゃ嫌だ、と。
「はい。相乗り馬車とは大違いでした」
「今日はフルールで、俺たちの婚約記念パーティーをしてくれるんだよね」
「婚約記念パーティー兼リュカさんの試験合格パーティーですよ」
リュカが勇者選抜試験を合格したこと、リュカとシルヴィーが結婚することになったことは、早馬でミレーユに連絡済みだ。
盛大なパーティーを用意しておく、という返事もあった。
「早く、じいちゃんにちゃんと報告したいな」
「はい。絶対、喜んでくれますよ」
「うん。行こ、シルヴィー!」
シルヴィーの手を引っ張って、リュカが走り出す。相変わらずの子どもみたいな行動が可愛くてしょうがないのは、妻の欲目かもしれない。
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