イケメンでさえあれば、人生イージーだと聞いたはずですが?

ちびまるフォイ

ただしいルックスの使い道

「え!? このパラメータを自由にいじっていいのか!?」


この世界に誕生する前に自分のステータス振りができる。


「はい。勉強に運動神経をはじめとする

 自分が伸ばしたいステータスに自分の才能を振ってください。

 

 幸いにも、あなたは才能豊かな親のもとに生まれました。

 なので振り分けできるステータスは多く……ってルックス全振り!?」


「ルックスこそ人生のかなめですよ。

 顔さえよければどんな世界も幸せ間違いなしです!」


「後悔しませんね」

「するわけがない」


こうして現世へと生まれ落ちた。


生まれた瞬間に明らかに整いすぎている顔は話題となり、

赤ちゃん時点で新生児室に長蛇の列ができるほど。


小学校にあがると生徒はもちろん、先生からも告白される。


「あーーまいっちゃうなぁ。ルックスが良すぎると困っちゃうぜ」


やはり自分のステータス配分は間違いなかった。

ルックスが良いというだけで人生の難易度は激下がり。


どこへ行っても何をしても異性がお供のようについて回る。

自分の髪の毛一本でも落とせば、魚のようにとびつく。


そんなインフルエンサーな自分の周りには男も寄り付く。

おこぼれにあずかろうと必死なんだ。


「人間の人生でもっとも大事なのはやっぱりルックスだ!!」


ルックス至上主義を確信した。



小学校までは。



中学生なると、自分を取り囲む大名行列は少し控えめになった。


「……おかしいな。成長してブサイクになったか?」


鏡を見ても360度イケメン要素で構成されている。

ブサイクどころかイケメンに拍車がかかっているほど。


実際にちょっと街を歩けばアイドルへのスカウトは止まらない。

他校の女子たちが黄色い歓声をあげて校門で出待ちをしている。


イケメンは相変わらずだ。

なのにどうして。


同級生からは飽きられ始めているのか。


「そりゃ、お前がなにもできないからだよ」


友達にいくとあけすけな答えが帰ってきた。


「何もできない……!?」


「たしかにお前の顔はいいよ。この国で一番といってもいい。

 でもそれ以外にお前にはなんの才能があるんだ?」


自分のステータスはルックスに全振りしている。

勉強もダメダメで、運動もできないし、芸術の才能もない。


アイドルのように歌って踊ることはできない。

イケメンなだけ。


俳優のように感情豊かな演技もできない。

自分はただイケメンなだけ。


アイドルも俳優も芸能人も。

どのスカウトもオーディションで落ちている。

ただのイケメンマネキンでしかない。


「そのうえ、お前ってあんまりデリカシーないじゃん」


「それお前がいう?」


「これくらいハッキリ言わないと理解してもらえないだろ」


「うーーん……」


「お前は遠巻きに見れば超イケメンで最高だけど、

 話したり、普段の行動などを見ていると

 イケメン以外なにもない人間だって気づくんだよ」


「ええ……」


たしかに中学生になると、

人気者は自分のようなイケメンから

「面白いひと」や「スポーツ万能」にシフトしていった。


昔のようにルックスいっぽんでチヤホヤされるほど楽ではなくなった。


イケメンすぎて恋人には困らないものの、

付き合ってすぐに向こうから別れを切り出される。


「俺、ルックス以外なにもないのか……!?」


そのように設定したがゆえにしょうがない部分ではある。

けれど極端なステータスがこんな結果になるとは思わなかった。


高校生にもなるとその傾向はより明確になる。


入学したてこそ爆発的な人気者になるが、

日常の中でボロが出始めてすぐに飽きられてしまう。


努力さえすれば自分も幅のある人間になれる。

そう思って努力しても才能を自分で削ったがゆえに限界はある。


みんなの当たり前に追いつくまでにアスリートのような努力が必要。

そんなのムリに決まっている。


あいかわらず自分は顔だけしか才能のない人間だった。


「みんな贅沢すぎる……。イケメンだけじゃダメなのかよ。

 イケメンでそのうえ歌って踊れて、勉強もできないと人気者じゃないのか」


大学生になるとイケメン伝説は過去の栄光となった。

今でも小学生の卒業アルバムの寄せ書きに数多ある異性からの告白の言葉を眺める日々。


「俺にルックス以外の才能が無いばかりに……」


それでも、と自己承認欲求を満たすため知らない街へ行く。

まだ自分を知らない人がいれば、ルックスにつられて惚れてくれるだろう。

自分にまだ商品価値があると思わせてくれるだろう。


「あ、きみ! ちょっといいかな!?」


「アイドルのスカウトですか? それとも芸能?」


このパターンも慣れているのですぐに先を示す。


「ちがうちがう。広告会社のものです」


「広告……? なんで俺に?」


「あなためっちゃくちゃイケメンじゃないですか」


「はは。よく言われます。まあ、それ以外の才能はなにひとつ無いんですが」


「いえいえ、それだけでいいんですよ。

 どうです? うちのポスターの広告塔になってくれませんか?」


渡りに船とはこのことだった。

撮影スタジオに案内されてビラ用の広報写真を撮影する。


モデルにスカウトされることはあったが、

2等身の自分の身体を見てすぐに諦められてしまう。


しかし、顔だけを撮影する広告となれば話は別。


広告は写真しか使われない。

自分のダメダメなトーク力も露呈しない。


広告に載せられるのは一流のコピーライターがつけた

ハイセンスかつおしゃれなキャッチコピー。


「ありがとうございます、おかげで最高の写真になりました!」


「こんなんで力になれれば」


「いえいえ、あなたのお陰で売上倍増まちがいなしですよ!」


「そんなうまいこといくわけ……」



いくわけない。

そう思っていたが、自分のルックスをナメきっていた。


抜群のイケメンを起用したことで、

その広告に使われていた靴下は品薄になるほど大人気。


運動神経も、勉強の才能も、芸術センスもない自分だが。

顔だけで勝負できる広告の世界ではまさにキラーコンテンツ。


これを皮切りに広告からのオファーが止まらなかった。


「ぜひうちの商品の広告へ!」

「あなたの顔を貸してください!」


「はっはっは!! 俺のルックスはこう活かすべきだったんだ!!」


イケメンは歌って踊れなくちゃいけない。

イケメンは映画やドラマに出なくちゃいけない。


それはイケメンなうえに、いくつもの才能を持っている人が選べる選択肢。


イケメンだけしかないのなら勝負するのは別の土俵。

広告こそが自分の生きる道にちがいない。


「広告最高だーー!!」


街の看板には自分の顔が使われ、

百貨店では自分の顔のアドバルーンが打ち上がる。

長尺の動画には自分の顔が使われた広告が入り、

駅のモニターには自分の顔を使った広告が並ぶ。


まさに広告キング。


毎月支払われる顔面使用料で一生遊んで暮らせる。


「才能なんかやっぱり必要ない!

 顔さえあれば人生イージーだ!!」


世界の真理を知ってしまった。

そしてまた次の撮影現場に向かう。


「あの、サインいいですか?」


通行人が声をかける。

これもひとつの広報活動として色紙を受け取ったときだった。


どす、と心臓付近に衝撃を感じた。


包丁が突き刺さっていることに理解できなかった。


「な、なんで……」


自分の問いかけに、ファンを装った女はヒステリックに叫んだ。


「あんたの広告を真に受けて友達は借金をしたの!!

 ぜんぶあんたのせいよ!!」


女の見せたスマホには、自分の顔が使われた消費者金融の画像があった。


いちいち自分の顔が使われている広告がなんなのか調べちゃいない。

こんなところに使われているなんて知らなかった。


知ったとしても別に止めなかっただろう。


「あんたが広告に出なければ!!

 その顔で友達が目を奪われなければ!!

 友達は借金して自殺なんかしなかったのに!!」



「そんなの……知らないよ……」



自分には人に気を使う才能がない。

その言葉がよくなかった。


逆鱗に触れたのかその後めった刺しにされた。



来世ではもっと平均的に才能を振ろう。



薄れる意識の中でそれだけは確かに心に誓った。

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