第20話

 買い物である。

 無論、なんか怪しいものを購入するとかではない。

 原作では怪しい機械やらお薬を購入しておりました天童武ですが、そんな事やったら普通に警察にしょっ引かれます。

 なので、今回の買い物は極めて普通。

 というかただ食材を買いに来ただけである。


 徒歩5分程の距離にあるスーパーマーケット『アンリアル』。

 なんか厨二っぽい名前だなと思うが、まあ、この世界原作がエロゲなのでそんなものだろう。

 変な物とか売っているかなとか思ったけど、別に何の変哲もない普通のスーパーマーケットである。

 あ、いや。

 なんか多彩な避妊具とか、何故か自慰用品が一角に並んでいて、それを客や店員は極々普通に受け入れていたけど、それ以外は極めて普通。

 羊肉やウサギ肉、ドラゴンフルーツとかドリアンとかが普通に並んでいる普通のお店です、うん。

 一体全体誰が購入するんだ、そういうの。

 

 無論、そういう珍妙なものを購入したりするもの好きではない俺は普通に買い物をしていく。

 今日買いに来たのは、豚肉、牛乳、ヨーグルト、小麦粉とか。

 豚肉は何日かに分けて食べる。

 そのためたくさんの、それこそ900グラムとかそれくらい入っているものを購入し、今日食べた後は残ったものを冷凍庫に保存しておくつもりだ。

 あとは、牛乳とヨーグルト、小麦粉。

 これらは結構消費量が多い。

 食事の他にもなんだかんだでお菓子作りに使ったりするからだ。

 朋絵ちゃんが遊びに来るし、桜子ちゃんの食後の甘味として弁当に入れる為にも時々お菓子を作っている。

 なのでこれらも大量購入。

 小麦粉はお徳用が売っているけど、残念ながら牛乳とヨーグルトにそういうのはない。

 結構経費が掛かるし、これからは作るお菓子を減らそうかしら。

 

「あら? 天童さん?」


 それ以外に値引きシールが貼られていたり、もしくはここで購入しておいた方が良いものはあるかなと思いながらスーパー内を歩いていると、唐突に背後から声が掛けられる。

 振り返ると、そこにいたのは黒髪の女性。

 竜胆愛奈、その人がそこにいた。


「あ、ああ。竜胆さん」

「天童さんも買い物ですか?」

「ええ、この通り」


 と、俺は自身の持つ籠を見せる。

 彼女もまた籠を持っていたが、しかし俺と比べて中に入っているモノは結構少ない。

 やっぱり女性だし、一度に購入するものは少ない方が良いとか、そんなところだろうか?


「なんと言うか、新鮮ね」

「新鮮、とは?」

「いえ。天童さんってなんだかインドアなイメージがあったから、こうして外に出て買い物に来ているというのがちょっと、ね」

「なるほど」


 確かに、言われてみれば。


「でもまあ、俺だって外に出る時は出ますよ。買い物は通販って手もありますけど、それだとお金が掛かりますし。それに身体を動かさないと身体が鈍ってしまいますから」

「あら、それじゃあ運動のつもりで?」

「後はまあ、良い食材はやっぱり自分で選んだ方が良いですから」

「それは、その通りね」


 彼女もまた納得と言わんばかりに頷いて見せる。

 主婦としてそこら辺に理解があるのは間違いないか。


 それにしても、と俺はさりげなく彼女の姿を見る。

 サラサラと流れる黒髪。

 赤く輝く瞳。

 ぷるっとした桜色の唇。

 流石は竜胆愛奈、大人の色気があるな。

 それと同時にやはり精神的に安定しているというか、ガードが固そうにも感じる。

 まあ、独りでずっと息子一人を育ててきたのだ、守りが固くて当たり前か。


 まあ、ここはそこまで深く探ったりはせず、世間話をしようか。


「それにしても最近は本当に暑くてたまりませんね」

「ええ、そうね。ただこういうスーパーとかは冷房がとても強いから、ちょっと風邪を引いちゃいそう。それに、うちの息子は暑がりだから冷房を強くしたがるのよ。私としては扇風機で我慢しなさいって思うわ」

「年頃の男なんてみんなそういうモノですよ。それに、男は女と違って暑がりって言いますからね。基礎代謝の違い、だったと思いますけど」

「へえ、そうなの。結構物知りなのね、天童さんって」

「いえいえ、俺はあくまで知っている事を話しているだけですよ。それに、こういう話はあくまで話題の一つにしかならないし、しかも発展性もない。俺としてはもっとウンチクじゃなくて、女性と上手く話せるようになりたいです」

「あら、ちゃんと話せていると思うわよ?」

「キザったい男が良く言うような、歯の浮いたようなセリフを自然に言ってみたいですね」

「あはは、冗談が得意なのね。天童さんって」


 くすくすと笑って見せる愛奈さん。

 うーん、可憐で可愛らしい。

 その上大人の女性としての色気があるとか最強かよ。


「とはいえ、そういうのはあまり他の女性には言うモノではないわよ、天童さん」

「それは、どうして?」

「セクハラに捉えられるかもしれないから。まるで私に対してキザったい、伊達男のような仕草をしたいみたいな言い方だったわよ」

「おや、そうですかね」

「ええ」

「でも、竜胆さんにならそのような事をするのもやぶさかではないと思ってはいますよ、俺は」

「……! も、もう。おばさんをからかうんじゃないわよ天童さん!」

「おばさんというにはまだ若いですし、まだ若々しい外見をしていると思いますよ、俺は」


 その言葉を聞き一瞬動揺を見せた彼女だったが、すぐに平静さを取り戻し、それから「はあ」とため息を吐く。


「まったく、桜子ちゃんの言う通りね」

「……え?」

「いえ、何でもないわ。それよりも、いい加減ここで立ち話をし続けるのは他の客に迷惑ですから、先に買い物を済ませてしまいましょう」

「ん、ああ。そうですね」


 それから俺達は二人並んで予定通りのモノを購入した。

 そして、当然のように、というかお隣さんなので一緒に帰るのは当たり前か。

 その時、愛奈さんの荷物が重そうだったので俺が持ってあげる事にした。


「いろいろとありがとうね、天童さん」

「いえいえ」

「ああ、そうだ。ちょっとそれを家に運ぶついでに、ちょっと家でお茶でもしていく?」

「え?」


 やったぜ。

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