第14話
ファンタジーというものは良い。
現実的でないところが魅力的だ。
世界が違うのだからルールや法則が違うので、どれだけ理不尽、ご都合主義でも許される。
それがファンタジーの一番の魅力だと私は思っている。
うん、だから私が書く作品というのはファンタジーに傾倒しているのだろう。
我ながら浅ましい理由だと思う。
現実で出来ない事を発散するように創作するというのは、もしかしたら創作行為に関しての冒涜なのではないかと常々思ってしまう。
だけど、でも。
私は。
それでもこの世界がファンタジーでない事を残念に思ってしまうのだ。
◆
「せーんぱーい」
「なんだー?」
俺はだらりと机の上で寝そべる後輩の朝日に目を向ける。
彼女にしては珍しい。
朝日はいつも元気一杯で、見ている時は常に忙しなく動き回っているイメージがあるんだけど。
「暇ですー」
「いや、そんな事を俺に言われてもな」
「何か芸をやってくださいー」
「無茶振りが過ぎんだろ……」
「コーラいっきでも良いですよ?」
「いや、無理だし。そもそもここにコーラはない」
「じゃあ、買ってきてください」
「先輩をパシらせようとすんなこら」
「あだっ」
ぱしんと頭を軽く叩く。
それから、確かに彼女の言う事も一理あるなと思った。
昼休み、やる事がない。
自作の短編の読み合い、感想の言い合いは先週やったし、そして今手元に文章はない。
もしここに夜月がいれば何か良い案を「やれやれ」と肩を竦めながら言ってきそう――ではないな、あいつの性格から考えて。
暇なら部屋の隅で持ってきた本を読み始めるのが夜月と言う人間だ。
「私達の時間は有限です、暇というものは存在しません。例えば私は読むべき積み本が大量にありますし。ていうか、それなら普通に勉強でもすれば良いのでは?」
そんな事を言いそうだ。
……間違いなく言いそうだなぁ。
少なくとも暇の潰し方を誰よりも知っている人間だ、金剛夜月という人間は。
「そういえば、夜月はどうしたんだ?」
「よーちゃんは図書委員の委員会があるらしいです。よーちゃん、一年生なのに書記なので、欠席は出来ないのです」
「あー、そんな事前に言ってたな」
「それよりも先輩ー」
「なんだ? コーラいっきはしないぞ?」
「そうじゃなくて、先輩。なんだか最近変わった事がありましたか?」
「変わった事? なんでそう思うんだ?」
「いや、なんか今日、ここに来るのがいつもよりも早かったみたいじゃないですか。だから何かあったのかなーって」
「何かあったっていうか」
俺は昼休みの事を思い出す。
桜子がカバンから弁当箱を取り出したのに驚いた。
「あれ? 弁当作ってきたのか?」
そう尋ねると、彼女は何やら慌てた様子で、「そ、んな事よりも。私は今日一人で食べるので翔は部活動にでも行ってください」と言われた。
……
俺が彼女と昼休みに食事を共にしているのは母からの指示だった。
「あの子は放っておけば一人でいる癖があるから貴方が一緒にいて上げなさい」と。
そうでなくても友人が皆無な彼女はいろいろと放っておけない。
そう思いなんだかんだで昼休みは一緒にいる事が多かったのだが、明確に彼女からそんな事を言われたのは初めてだった。
うーん……
「なにも、ないけど」
「まあ、何もないから早く来れたと言うべきですかね」
一人納得する朝日。
と、そこで教室の扉ががちゃりと開かれる。
もしや夜月かと思って目を向けると、そこにいたのはまさかの日乃本朋絵だった。
「日乃本?」
「よっすお前等ー。元気にしてっかー?」
そんな風にニコニコ笑いながらこちらへとやって来る彼女の手にはファイルが握られていた。
なんだろう。
多分、それがここへ来た理由のような気がするけど。
「何しにきたんですか、日乃本先輩?」
何やらちょっとだけ不機嫌そうな口調で尋ねる朝日に対し、日乃本は変わらず陽気は調子で、
「部誌の表紙のラフ、出来たから見せようと思ってね」
「あれ、もう出来たのか? ちょっと早くないか?」
「いやー、今回はちょっと張り切っちゃってねー」
そう言い、彼女はファイルから印刷用紙を取り出し、俺達に差し出してくる。
そこに描かれたのは――お世辞ではないが、結構上手いイラストだった。
いや、本当に上手い。
こんなに彼女、上手かったっけ?
というかこれ、デジタルイラスト?
日乃本って確かいつもアナログイラストだった気がするけど……
「どうよ?」
「うーん、個人的には二枚目が好きですね」
「あー、私もそう思ってた。翔君は?」
尋ねてくる日乃本を顔を見て、アレ? と思う。
彼女、化粧をしている?
珍しいな。
日乃本ってそういうのをしていないイメージがあったけど、こんな風に化粧に疎い俺でも分かるぐらいだ、あからさまに化粧を施しているのだろう。
頬が若干赤みを帯びているような気がするし、唇なんてぷるぷるだ。
「翔君?」
「あ。え、えーっと。俺も二枚目が良いと思うよ」
「そっか。それじゃあ、二枚目を清書していくって事で。それじゃあ、あでゅー」
そして、あっさりと教室から去っていく彼女の背中を、朝日は何やら恨めしそうに見つめている。
そしてその視線のまま、彼女は俺の事を見てくる。
「なんか、アレでしたね」
「アレ?」
「先輩。なんか視線がアレでしたよ?」
「な、何が?」
「……なんでもありません」
その後、何故か不機嫌になった彼女の機嫌を取るため、自販機からコーラを買ってきていっき飲みする羽目になった。
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