第11話
今日も朋絵ちゃんは放課後家に来ていて、そして今日は珍しく桜子ちゃんも家にいた。
二人はお茶を飲みながらおやつのクッキーを食べている。
ちなみにクッキーは俺が暇潰しに作ったチョコチップクッキーだ。
大量にどすどすとチョコを投入してあるので凄く美味しいが、しかしこれは沢山食べると糖尿病になってしまいそうだ。
「うぇっへっへぇ~」
朋絵ちゃんがなんかキモチワルイ笑みを浮かべている。
なんだなんだ。
良い事でもあったんだろうか?
「……なに、気持ち悪い表情をしているんですか」
「いやー、私。ぐんぐん成長しているなーって思って」
「はぁ?」
「実はねー、ツブヤイターでイラストあげたら『良いね!』が300もついてさー」
「それ、凄いんですか?」
「い、いやまあ。最近流行っているアニメに便乗しているから凄いかどうか言われると、うん。どうだろ」
桜子ちゃんに素の表情で尋ねられた朋絵ちゃんは焦ったような表情をする。
そしてすん、と目を逸らしながら、
「……うん、実はそう凄くないかもしれない」
「はぁ」
メチャクチャどうでも良さそうな「はぁ」だった。
ここまでどうでも良さそうな雰囲気を出すのはなかなか難しいよなと思う。
少し、感心する。
いや、感心するところではないか。
「それより、二人とも」
「ん?」
「はい?」
「学校はどうなんだ? 楽しく過ごせているか?」
それはちょっとした日常的な会話であり、そして情報収集目的でもあった。
最後のヒロインである二人は朋絵ちゃん経由でしか知り合う事が出来ない。
現在の朋絵ちゃんは俺にそこまで従順ではないので彼女の友達であるその二人を直接連れてこさせるとかは出来ないし、情報もぽんぽんと引き出せはしない。
でも、ちょっとくらいなら知る事が出来る、知り合えるきっかけになる情報を少しくらいは得られるかもしれない。
「私はまあ、普通ですよ。普通に学校に行って、授業を受けて、帰ってくる。それだけです」
「まあ、桜子さんって基本独りだもんね」
「……ちょっと、朋絵さん」
「事実じゃん」
「あれ、でも桜子ちゃんってお隣の男の子と友達じゃなかったっけ?」
ちょっとカマをかけるつもりで翔少年の話を出してみる事にする。
すると桜子ちゃんはちょっと焦ったように、
「べ、別に翔はただの友達ですし、それ以上でもそれ以下でもありません。話す時はありますけど、話さない時もあります」
「ふーん」
「ほ、本当ですよ?」
なんだか腹立たしいな。
もしかして実は結構二人の間に進展があったりしたのだろうか。
二人の関係は彼女の両親の事故をきっかけに、桜子ちゃんの心の傷を癒すという形で発展していく。
今、翔少年はその役割を果たしているのだろうか。
だとしたら、不味いかもな。
早く、桜子ちゃんを俺のモノにしなくてはならないかもしれない。
「そ、それで。朋絵さんはどうなんですか?」
「んー、私?」
「ええ。確かイラスト同好会に入ってましたよね」
「うん、それで今は文芸同好会の出す部誌の表紙を描いているよ」
「へえ、文芸同好会」
俺はとりあえず思考を切り替え、朋絵ちゃんのその情報を掘り下げる事にした。
「文芸同好会って、部じゃないって事は部員が少ないのかい?」
「うん、今のところ五人で、うち二人は幽霊部員。実質三人で活動しているようなもんだよ」
「それはそれは。それで、どんな部員がいるんだ?」
「えっと、件の竜胆君と、後は金剛って双子の子。一年生のね」
「双子で同じ部活にいるっていうのは、なんだか珍しい気がするな」
「まあ、二人の描くジャンルは正反対だけどね。朝日ちゃんはファンタジーで夜月ちゃんは現代ものを書いてたと思った」
「なるほどね」
そう言いつつ、結構情報が出て来たなと棚ぼた具合に内心にやりと笑う。
金剛朝日と金剛夜月。
ヒロインの二人だ。
ここで二人の事を知れたのは今後に結構影響してくると思う。
「朋絵ちゃんはその文芸同好会の人達とは仲が良いのか?」
「いやー、あんまりだね。朝日ちゃんとは仲良くやっているけど、夜月ちゃんとは全く話さないし、竜胆君とは顔を合わせるくらい」
「……そんなんで部誌の表紙描けるの?」
「うん、朝日ちゃんにこういうの描いてーって言われて、その指示に従って描くだけだから」
「ふーん」
「あっ、もしかして武さん。私と竜胆君の関係が気になっているの? イヤだなー、私は今のところ好きな人はいないからねー」
にやにやと笑ってみせる朋絵ちゃん。
「私はあくまで! 今のところはイラスト一筋ですから!!」
「それは重畳。頑張ってくれ今後も」
「あ、あれー? そんな風に素で返されるとこちらとしても困るんだけど」
「嘘なのか?」
「い、いや。嘘じゃないけどさー」
なんだか釈然といないとぼそぼそと言う朋絵ちゃん。
?
何が釈然としないのだろうか?
「ま、なんにせよ。朋絵さんは今後もイラストレーターになるという夢に向かって頑張ってくださいね」
と、桜子ちゃんはにこっと笑いながら言う。
「私と武さんはその事を応援していますので」
「あはは。うん、これは私だけの夢じゃないからね。勿論、頑張るよ」
「ええ。貴方の夢、叶う事を祈っていますよ」
ニコニコと笑い合う二人。
なんだかんだで仲が良さそうでこちらとしても嬉しかった。
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