第10話 愛しているの

 悩んでいる間にも信乃は、俺の服を脱がす。

 って、脱がされてるっ……!


「ま、まてまて!」

「どうしたの、社くん。なんで慌ててるの」

「そりゃ慌てるだろ。信乃は俺と……シたいのか」

「うん。もう今年で高校生活も終わっちゃうし、今のうちに思い出を作っておきたいなって……そう思ったの」


 納得すぎる理由だった。

 付き合って長いのに、未だにそういうことをしたことがない。キスすらも。

 こうして本格的に触れ合うこともなかった。

 俺がヘタレだから――。


 思えば、信乃には恥をかかせていたかもしれない。

 何度もそういうアプローチはあった。

 でも、俺は自然と逃げていた。

 勇気がなかったからだ。

 けれど今は状況が大きく変わった。信乃が俺を誘ってくれる。こんなどうしようもない俺を。


「いいのか」

「もちろんだよ。君の好きにして……」


 そう耳元でささやかれ、俺は頭が真っ白になった。信乃からそんな風に言ってもらえるなんて幸せすぎる。


 とはいえ、俺から好きにするも何も信乃は俺の服を脱がしていた。……脱がされてしまった。

 あまりの積極性に混乱したほどだ。


「な、なあ……」

「どうしたの?」

「今度は俺の番だ。信乃の服を」

「う、うん。でもやっぱり恥ずかしいな……」


 赤面する信乃は可愛かった。

 俺も緊張でどうかなりそうだったが、欲望には勝てなかった。このまま勢いに身を任せていく。

 制服を脱がせ、ついに信乃は下着姿に。


 ……おぉ、これが信乃の……。



『ガチャッ』



 なにか音がしたような気がした。

 こちらを見る気配を感じ、俺はなんとなく扉の方へ視線を向けた。……すると。



「………………」



 絶望的な眼差しを向ける信乃のお父さんの姿があった。

 い、いつの間に!?

 気絶していたんじゃ……。



「「…………えっと」」



 俺も信乃も固まった。

 どうしよう…………?


 てか……これは非常にマズイのでは…………!?


 次第に信乃のお父さんの顔色が変わっていく。まるで般若のような恐ろしい形相に変貌して、ついには怒り狂った。



「貴様あああああああああああああああああああああああああああああああああ!! 緑谷いいいいいいいいいいいいいい!!!」


「うああああああああ!?」



 発狂する信乃のお父さんは、俺に襲い掛かってきた。しかし寸でのところで信乃が俺をかばってくれた。



「やめて!」

「し、信乃。だが、その男はお前を襲おうとしていたのだぞ! これは許されることではない!」


「愛しているの」


「え……」

「わたしは社くんを愛しているの!!」


「ぬわあああああああああああああああああああああ!!!」



 それを聞いて信乃のお父さんは絶叫して――またもぶっ倒れた。ショックを受けすぎだろっ!

 その直後にはアルフレッドさんが登場。

 運ばれていった。


「だ、大丈夫なのか?」

「お父さん、過保護だからね。あー…やっぱり家じゃ無理か」

「そうだな。次こそは日本刀で襲われてもおかしくない」

「社くんの命が危ないね……」


 諦めたのか、信乃は制服に着替えた。

 く~、残念。

 その先をしたかった。

 でも、下着姿がおがめただけでもヨシとしよう……!


 ――なんてな。これしきで満足する俺ではないのだ。今さっきので俺は勇気をもらった。今度は俺からいく。


「信乃……」

「えっ、社くん。そんなに見つめて……まさか」


 驚く信乃。けれど、直ぐに俺を受け入れてくれる。ゆっくりと唇を近づけて――。

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