第9話 俺、襲われる

 こちらに詰め寄ってくる信乃のお父さんは、怒りに満ちていた。

 ま、まさか俺のこと何も話していなかったのか。


「…………ッ!」


 あまりの迫力に俺は一歩どころか三歩下がった。いや、五歩だ。

 これは殺される……?


「緑谷、貴様なんぞ認めんぞ」

「え……」

「たかがネットニュースに載った程度で粋がるなと言っている……!」


 そのことは知っているのか。

 一応、認知はされているというわけか。だが、印象は最悪らしい。ここまで歓迎されていないとはな。

 信乃を溺愛しているらしい。

 それもそうか。

 こんな可愛い娘がいれば心配にもなる。


「やめて、お父様。彼は命の恩人なの」

「そんなことはどうでもいい。今すぐ帰らせろ」

「なら、わたしも出ていく」

「……な、なにを言っている信乃。お前は我が大門寺家に必要なのだ。こんな庶民と付き合わず、もっと地位や権力のある男と付き合いなさい」


「そんなのどうでもいいよ。わたしは社くんが好きなの」


 ハッキリと言う信乃。

 意外な発言にお父さんも驚いていた。


「し、しかしだな……」


 おや、なんだか娘に対しては弱いようだな。

 ちょっとビビったけど、弱点が分かればどうということもない。

 信乃は俺の味方。

 堂々としていればいいんだ。


 俺の心境を察するかのように信乃は、更なる手を打ってきた。

 大胆にも抱きついてきたのだ。


 ちょ…………これは逆効果では!?



「…………んなああああああッ!?」



 絶望感漂うほどに絶叫する信乃のお父さん。

 俺と信乃の光景を見てショックを受けている。今にもぶっ倒れそうな――いや、白目をむいてぶっ倒れた。


 だ、大丈夫なのだろうか。


 心配していると執事のアルフレッドが疾風迅雷となって駆けつけてきた。


 びゅ~んっと風の切る音がして、執事は信乃のお父さんを支えた。



「旦那様をお預かりいたします」



 これまた素早く去っていった。

 な、なんて手際の良さだ。アレはなにかの達人だな。



「アルフレッドは元軍人なの」

「あの身のこなし、そういうことか」


「さ、それよりもわたしの部屋へ行きましょ」



 信乃は相変わらず俺に抱きついていた。

 引っ張られて、ついに信乃の部屋に。


 扉の前につくと自動で開いた。――じ、自動だと……!? 最先端だなぁ。なんて思っていると、ついに中が露わになっていく。


 ……おぉ。ここが信乃の部屋か。


 室内は予想外にも、モダンで落ち着いていた。意外にも女子っぽくないというか、ビジネスライクな雰囲気。


「ほー、これが信乃の部屋」

「簡素でつまらないよね」

「いや、すごくいい部屋だと思う。高級感あるし」

「じゃ、さっそくベッドへ行こうか」

「…………え?」


「え? 社くん、そういうつもりじゃないの?」

「そういうつもり? どういうつもり!?」


 俺は混乱した。

 信乃はなにを期待していたんだ……!?


 あ!


 まさか!!


 なんてこった。信乃は俺とそういうことをしたかったのか……。


 理解が追い付き、頭が真っ白になっていると信乃は俺の腕を引っ張った。そして、俺はベッドの中へ。


 わぁ、ふかふかで寝心地凄いや。……って、そうじゃない!


「こういうつもり」

「ちょ、信乃。ヤる気満々じゃないか……!」

「いいでしょ。付き合っているんだし」

「そ、それはそうだけど……。ほら、お父さんめっちゃ怒っていたし、こんなところを見られれたら今度こそ殺されそうだよ」


「気にしない気にしない。お父さん、本当は優しいから」


 や、優しいかなぁ?

 今のところ殺意しか感じなかったけど。

 でも、信乃がいる限りは問題なさそうなのは確かだ。


 安心していると、信乃は俺を押し倒した。


 いや……普通、逆な気がするんだが!


 なぜか襲われている……!


 ど、どうしよう。

 欲望のままにこのまま続けるべきか。

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