第8話 乙女の秘密

 車に乗り込み、俺は緊張に支配された。

 こんな高級車の後部座席に乗るなんて人生ではじめて。異次元レベルでふかふかで驚く。


「そわそわしているね、社くん」

「そりゃそうだ。こんな凄い車が迎えにくるとは思わんって」

「本当にごめんね」


 謝罪と共に信乃は、俺の肩にその小さな頭を寄せてきた。

 寄りかかるようにされ、かつてないほどに心臓がドキドキした。

 おかげでほとんど会話の内容は覚えていない。

 気づけば信乃の家に到着していた。


 車の扉を開ける執事のアルフレッドさん。信乃から降り、俺も続いた。そして、直ぐそこには圧巻すぎるほどの大豪邸があった。



 な……!


 なんじゃこりゃあッ!?



 外壁がどこまでも続く。果ては……あるのか?

 セキュリティが厳重な門を抜けると、広々とした庭があった。凄く手入れの行き届いた花園。入場料が取れるレベルだぞ、これは。

 おまけに噴水がある家なんて見たことないぞ。


 少し歩いてようやく玄関前。

 そこは開放されており、直ぐに入れた。


 豪邸の中も広かった。

 四方八方に通路があり、二階へ続く階段もあった。部屋の数もたくさんありそうだな。


「えっと……お邪魔します」

「社くん、驚いているよね」

「そりゃな。これほどの大豪邸だとは予想もしなかった。圧倒されているよ」

「でも、わたしはあんまり表に出したくなくてね」

「そうなのか?」

「うん。ほら、お嬢様って堅苦しじゃん。目立つし、変な男も寄ってくるからさ」


 なるほど、金持ちなりの悩みというわけか。俺には一生縁のない悩みだな。


「いったい、どこの企業のお嬢様なんだ? これほどとなると、かなりの大手企業だろう。間違いなく、財閥のお嬢様だろ」


 そうとしか思えない。

 執事の他にもメイドが歩いていたし、広すぎる廊下には有名そうな絵画やパワーストーンらしきものまで置かれていた。

 それに中世の甲冑とかね。どこの貴族様だよと俺は思った。


「う~ん、それはまだ秘密かな」

「教えてくれないのかよー」

「女は秘密がある方が美しくなれるんだってさ」

「誰の名言だよ」


 まあいいか。今は信乃の家を満喫する方が優先だ。

 彼女がこんな凄い場所に住んでいる、それが知れただけでも大収穫だ。

 いや、だが俺と住む世界があまりにも違いすぎる。

 俺が信乃を幸せにするどころか、すでに幸せを超越しているような感じでフクザツだ。


「ひとまず、わたしの部屋に行こっか」

「いいの?」

「もちろんだよ。ずっと……ず~~~っと社くんを招きたかったんだよね」

「そりゃ嬉しいな。ぜひ、信乃の部屋を見せてくれ」

「うん、こっちへ来て」


 手を引っ張られ、俺はテンションが上がった。

 いよいよ彼女の部屋が見られる。

 家だけでも圧倒されているが、やっぱり信乃の部屋が一番気になる。


 またも広い通路を歩いていく。

 家の中をこんな歩くなんて普通の民家ではありえないぞ。


 二階へ向かい、ようやく信乃の部屋に辿りつきそうになった――その時だった。



「おかえり、信乃」

「た……ただいま。お父様」



 お、お父様ぁ!?

 まさか、あのダンディなお方が信乃のお父さんなのか……! 物凄くイケメンで紳士な感じ。優しそうではあるな。


 そう感じたのも束の間だった。



「なんだね、この男は」

「紹介するね。彼は社くん。緑谷 社くんで彼氏だよ」



「彼氏……彼氏だおおおおおおおおおおおおおおお!?」



 信乃のお父さんは顔を真っ赤にし、いきなりブチギレで叫んだ。

 ま、まさか親にはなにも言っていなかったのか……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る