第7話 彼女の意外すぎる一面

「帰りましょ、社くん」


 俺の手を握る笑顔の信乃。

 待ちに待ったこの瞬間。ついに彼女の家に行くことができる。


 なんだかんだで俺は楽しみであった。

 女子の家にお邪魔するだなんて、今までの人生で一度もなかったワケで。

 いったい、信乃がどんな家に住んでいて、どんな生活をしているのか……。付き合って三年目にしてようやく明らかになる。


「行くか」

「うん。でも油断はできないかな」


 歩きながら俺は「どういうこと?」と聞き返した。

 すると信乃はこう言った。


「ほら、さっきも邑崎さんに話しかけられていたでしょ」

「見ていたのか……!」

「そりゃね。ネットニュースのことが少しは薄れてきたとはいえ、まだまだモテるんだね。ゆるせないっ」


 海で信乃を助けたという件。その影響は確かに大きいと言える。しかしもう三年が経とうとしている。いくら校長が流布しているとはいえ……それがモテる原因になるのかどうか。

 実際さっきも邑崎さんには話しかけられたけど、ウ~ン。


「大丈夫だ。俺は信乃一筋だよ」

「わっ、嬉しい♡ けど、社くんがわたしを裏切らないって知っているからね。ていうか裏切ったら殺しちゃうかかも♡」


 その目線に俺はゾクッとした。

 こ、怖いな……! でも、なんか愛されているようで嬉しい。当然、俺は信乃を裏切るつもりなんて毛頭ない。

 こんなに可愛い女子が他にいてたまるか。


 そんな他愛のない話をしながら、学校を後にした。


 空はまだ青いような、少し赤く染まってきたような、そんな微妙な色彩を放っていた。

 帰路はいつもと変わらず閑静であり、人も車の通りも少ない。過疎ってんのかと思いたいほどにすれ違わない。

 学校から歩くこと五分強。


 信乃は突然、足を止めた。


「……? どうした、信乃」

「実はわたしの家、ここから遠いんだよね」

「バスか電車通学なのか?」


 だが、信乃は首を横に振った。違うらしい。


「ここで少し待つの」

「どういうこと? タクシー?」

「違うよ~。送迎が来るんだよ」

「そ、そうげい……?」


 俺の頭上にはハテナが浮かんだ。

 腕を組みながら思考をフル回転させた。


 ああ、分かったぞ!


 親が迎えにくるんだ。そういう意味だ! うんうん、納得。


 けれど俺の予想は見事に外れた――。


 少し経つと高級外車らしき車が目の前に停まった。

 なんだこのイカツイの……。

 運転席からガタイの良い老執事が現れ、信乃の前で深々とお辞儀した。



「お待たせいたしました、お嬢様」



 そのセリフに俺はハッとなった。



 お、お嬢様~~~~~~ッ!?



 ま……まてまてまて!

 信乃がお嬢様だって!?

 聞いてないぞ!

 いや、聞かなかったけど!


「マジかよ」

「ごめん、社くん。別に騙すつもりとかなかったんだけどね。この眼帯の執事さんは、わたしの専属執事」


 せ、専属執事ィ!?

 そんなのいるんだ。びっくりだぞ。


「お初目に掛かります。アルフレッドです」

「緑谷 社です……」

「ええ、存じております。ではさっそくお車へ」


 乗れと言われ、乗るしかなかった。

 まさか執事が迎えにくるとは……。いや、それよりも信乃がお嬢様だったなんて知らなかった。

 そ、そうか……俺はお嬢様と付き合っていたのか。

 信じられんが、言われてみれば普通の女子とはレベルが違うなとは感じていた。


 まずは圧倒的に整った容姿。

 トップアイドルと言われても納得する。

 腰まで伸びる芸術的なまでの髪。低身長の細身で可愛らしい。ひとつひとつの仕草にも気品があって、良い匂いもする。

 最後に豊満な胸。男子は必ずそこに目がいくだろう。俺も一日に三回は……見てしまう。


「どうしたの、社くん?」

「驚いているんだよ……」

「ごめんね。でも、これでわたしのこと少し知れたね」

「そうだな。ああ、嬉しいよ」


 俺は凄く嬉しかった。

 そうか、好きな人のことを知れるってこんなに“感動”があったのか。……知らなかったな。

 よし、もっと知っていくか。信乃のことを。

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